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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)12465号 判決 1993年5月25日

大阪市中央区東心斎橋一丁目二〇番一六号

原告

大同酸素株式会社

右代表者代表取締役

青木弘

右訴訟代理人弁護士

岸憲治

右輔佐人弁理士

菅原弘志

大阪市西区京町堀二丁目四番七号

被告

中外爐工業株式会社

右代表者代表取締役

谷川正

右訴訟代理人弁護士

米原克彦

玉生靖人

本井文夫

植村公彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙イ号説明書及びロ号説明書に記載の構造を有するガスバーナ(商品型番FHC-Ⅲ型及びFHC-Ⅴ型ガスバーナ)を製造販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金七五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告の特許権

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を、播磨耐火煉瓦株式会社と共有していたが、昭和五九年一二月六日に同社からその持分の移転を受けて昭和六〇年六月二一日に持分取得の登録をし、以後単独で有している(争いがない。)。

発明の名称 ガスバーナ

出願日 昭和四八年三月二日(特願昭四八-二五四三七号)

出願公告日 昭和五三年九月八日(特公昭五三-三二五三九号)

設定登録日 昭和五四年五月二五日

登録番号 第九五一五二六号

特許請求の範囲

「二重筒状に配したガス供給導管6と空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用空気とを混合して絞り部分を有するバーナータイルより予混合ガスを噴出せしめる予混合形ガスバーナであって、前記両管6、11よりも更に内側のバーナ内中心軸上には、前記燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍早い速度で絞り部2よりも噴出方向上手側から噴射する小径の高圧気体噴射ノズル3を設け、前記絞り部2よりも噴出方向下手側で燃焼すべく構成してあることを特徴とするガスバーナ。」(添付の特許公報〔以下「公報」という。〕参照。)

2  本件発明は次の構成要件からなる(甲二)。

A 二重筒状に配したガス供給導管6と空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用空気とを混合して絞り部分を有するバーナータイルより予混合ガスを噴出せしめる予混合形ガスバーナであること。

B 前記両管6、11よりも更に内側のバーナ内中心軸上には、前記燃料ガス及び燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍早い速度で絞り部2よりも噴出方向上手側から噴射する小径の高圧気体噴射ノズル3を設けてあること。

C 前記絞り部2よりも噴出方向下手側で燃焼すべく構成してあること。

D ガスバーナであること。

二  被告が製造販売する物件

1  被告は、「FHC-Ⅲ型」という商品型番のガスバーナ(以下「イ号物件」という。)及び「FHC-Ⅴ型」という商品型番のガスバーナ(以下「ロ号物件」といい、両物件をまとめて「被告物件」という.)を製造販売している(争いがない。)。

2  イ号物件の構造

イ号物件は、イ号説明書及びイ号図面に記載の構造を有する(甲三、検証、弁論の全趣旨)。

なお、被告は、原告主張のイ号説明書二項(構造の説明)の記載はイ号物件の構造を正確に説明しておらず、イ号物件は、右記載のうち、1の七、八行目「スロート部2より吹出さしあて拡散混合させるとともに」中の「て拡散混合させ」を削除し、同一〇行目「ガスバーナである。」の前に「拡散混合による二段燃焼式」を付加し、2の一、二行目「常温または予熱した」の前に「前記送風ファン15から空気配管14を介して送られる最大負荷空気流量の一~三%の」を、二行目「燃焼用空気」の前に「450mmH2O以下の低圧の」をそれぞれ付加し、3の四、五行目「残燃料ガス」は「残全量燃料ガス」と改める訂正を加えた構造であり、更に、イ号物件の構造を正確に特定するためにはイ号図面の他に別紙イ号第二図面(燃焼状態を示す説明図)が不可欠であると主張するが、原告が本件発明の技術的範囲に属すると主張するイ号物件は、イ号説明書及びイ号図面の記載により特定明示されていると認めるのが相当である。

3  ロ号物件の構造

ロ号物件は、ロ号説明書及びロ号図面に記載の構造を有する(甲三、検証、弁論の全趣旨)。

なお、被告は、原告主張のロ号説明書二項(構造の説明)の記載はロ号物件の構造を正確に説明しておらず、ロ号物件は、右記載にイ号物件についてと同じ訂正を加えた構造であり、更に、ロ号物件の構造を正確に特定するためにはロ号図面の他に別紙ロ号第二図面(燃焼状態を示す説明図)が不可欠であると主張するが、原告が本件発明の技術的範囲に属すると主張するロ号物件は、ロ号説明書及びロ号図面の記載により特定明示されていると認めるのが相当である。

三  原告の請求の概要

被告物件は本件発明の技術的範囲に属するとして、本件特許権に基づき被告物件の製造販売の停止を請求するとともに(口頭弁論終結の日は、本件特許権の存続期間終了前の、平成五年二月一六日である。)、不法行為による損害賠償請求権に基づき実施料相当の損害金四億九六〇〇万円(三一四億円〔被告の昭和五三年九月八日から昭和六〇年六月二〇日までの被告物件及びそれと同様の構造を有するガスバーナを使用した工業炉、燃焼機器及び付属品の売上高〕×〇・〇二〔実施料率〕×〇・五〔共有持分の割合〕+九一億円〔被告の同月二一日から昭和六二年九月末日までの被告物件及びそれと同様の構造を有するガスバーナを使用した工業炉、燃焼機器及び付属品の売上高〕×〇・〇二〔実施料率〕)の内金七五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年一月九日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を請求。

四  主な争点

本件の主な争点は、被告物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かであり、この点に関する当事者の主張の要旨は次のとおりである。

1  構成要件Aにいう「予混合形ガスバーナ」の意義

【原告の主張】

(一) 構成要件Aにいう「予混合形ガスバーナ」とは、燃料ガスと燃焼用空気とを二重筒状に配したガス供給導管と空気導管から別々に供給し、バーナータイルの絞り部分の上手側で噴出、混合させて予混合ガスとするガスバーナである。

予混合形ガスバーナには、「全予混合式ガスバーナ」と「部分予混合式ガスバーナ」(「一部予混合形ガスバーナ」ともいう.)があり、このことは、日本工業規格(JIS)の「工業用燃焼装置用語(液体及び気体燃料)BO113」(甲五)にも示されており、本件特許出願前から周知の事実である。拡散燃焼方式のガスバーナは、燃料ガスと燃焼用空気を別々に噴出し、拡散混合しながら燃焼せしめるバーナである。W.TRINKSが著した「INDUSTRIAL FURNACES VolumeⅡ」の第三版〔一九五五年版〕を翻訳した「工業用加熱炉(下巻)」(甲六)、「燃料と燃焼」(甲七)及び「燃焼機器工学」(甲八)の各書籍中の記載によれば、一部予混合形ガスバーナでは、空気とガスが完全均一に予混合されているのではなく、両者が部分的に混合されているのが一般的である。右のうち、「工業用加熱炉(下巻)」は、「同(上巻)」とともに、工業用加熱炉の教科書として日本国内で永年広く読まれ、日本国内におけるこの分野の技術的背景に大きく影響した書物であり、「燃料と燃焼」は元東京大学教授の著書で、燃焼に関する技術書として版を重ねてきた有名な書籍であり、その第三版は昭和四〇年に刊行されており、本件特許出願日を基準とすればさほど古い書籍ではない。

本件発明は、燃料ガスと燃焼用空気とを、完全均一ではなく、部分的に混合してバーナタイルの絞り部から噴出させる構成であり、右の「予混合形ガスバーナ」のうち「部分予混合形ガスバーナ」(「一部予混合形ガスバーナ」)に属するものであり、被告主張の如き「燃料ガスと燃焼用空気とが予め完全均一に混合した混合気をバーナタイルの絞り部2から噴出させる構成のガスバーナ」に関するものではない。このことは、願書添付明細書及び図面の記載内容から明らかである。すなわち、本件発明のガスバーナは、従来の一部予混合形ガスバーナに加えて、更に燃料ガス管の内部にセンターエア導管を設け、ガスの内部にエアの気流を生じさせることにより、混合性を向上させた点に特徴があるのである。そしてこのガスバーナは、願書添付図面第1図に示されている構造からみて、燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進するものであるが、両者を完全均一に混合するにはスロート部の長さが内径に較べて短かすぎるから、両者を完全均一に予混合した状態でバーナタイルから噴出するのではなく、混合状態が不完全なまま噴出するものである。

(二) 被告の主張について

被告は、「拡散混合形ガスバーナ」なる語を「予混合式ガスバーナ」に対する確立された技術用語であるかのように使用するが、「拡散燃焼式(形)ガスバーナ」及び「拡散炎形ガスバーナ」の用語は確立されているとしても、「拡散混合形ガスバーナ」は確立された技術用語とは言い難い。「拡散混合」は混合のメカニズム、換言すれば二種以上のガスがいかなる過程を経て混合するかを表す語であり、二種以上のガスがどの段階において混合しているかを表す「予混合」と対比して用いるのは適当ではない。予混合に際しても拡散混合が行われるのである。

被告は、「予混合形ガスバーナ」の意義について、大阪大学工学部機械工学科香月正司助教授作成の「部分予混合火炎の定義について」と題する書面(乙四)を基にるる主張するが、右書面の記載内容は「部分予混合火炎」の定義に関する学術的な見解であって、本件特許出願当時の実務的技術背景とは直接関係がない。また、同号証では、「Premixed flame」の意味について学術的な見解を記載しているが、日本語の「予混合」の意味が「分子レベルまで完全均一に混合したガス」に限定されるか否かについては何ら記載がない。しかも、右書面には、W.TRINKSが「INDUSTRIAL FURNACES VolumeⅡ」の第三版〔一九五五年版〕まで使用していた「Premixing」には、分子レベルまで均一に混合するという意味は含まれていない旨記載されている。本件発明にそのような技術的背景に基づくものであるから、「予混合」が「分子レベルまで完全均一に混合していること」を必須要件とするものではない。

【被告の主張】

(一) 原告の主張は、学術用語あるいは当業者が用いる技術用語として確立している「予混合形ガスバーナ」、「全予混合形ガスバーナ」、「部分予混合形ガスバーナ」及び「拡散混合形ガスバーナ」の各概念を全く無視混同するものである。これら各種ガスバーナの構造上の特徴は次のとおりである(「図解燃焼技術用語辞典」〔乙一〕)。

(1) 「予混合形ガスバーナ」とは、燃焼開始以前に、バーナの内部又は別に設けた混合室内で、燃料ガスと燃焼用空気を予め完全均一に混合したうえ、該混合気をバーナから噴出させ、燃焼する形式のガスバーナであり、「内部混合形ガスバーナ」ともいう。これは、燃料ガスと完全均一に混合させる燃焼用空気の量により、「全予混合形ガスバーナ」と「部分予混合形ガスバーナ」とに分類され、「全予混合形ガスバーナ」とは、バーナの内部又は別に設けた混合室内で、燃料ガスと所要の燃焼用空気の全量を予め完全均一に混合したうえ、バーナから噴出すると同時に燃焼させる形式のガスバーナをいい、「部分予混合形ガスバーナ」とは、バーナの内部又は別に設けた混合室内で、燃料ガスと所要の燃焼用空気の一部を予め完全均一に混合したうえ、この混合気をバーナより噴出した後所要の燃焼用空気の残量を供給し、両者が接触混合しながら燃焼させる形式のガスバーナをいう。

この予混合形ガスバーナは、急速に燃焼するので高温火炎が得られ、火炎寸法がコンパクトである。しかし、燃料ガス又は燃焼用空気の一方又は双方が高温になっている場合には、バーナ内部へ逆火し、又は爆発によってバーナを損壊する危険性があるので、燃料ガス予熱や燃焼用空気予熱をすると事故につながる。一般的には炉内からの輻射熱によって混合気の温度が上昇することもあるため、燃料ガスと燃焼用空気の温度は常温に限定される。また、燃焼量を絞りすぎると、バーナ内部へ逆火し、又は爆発する危険性があるので、操作は注意を要する。更にこのバーナでは、燃料ガスと燃焼用空気の流量割合(混合割合)が燃焼範囲(可燃範囲ともいう)の中にある場合にしか燃焼できないので、安定燃焼させるための流量調節範囲が狭い。

(2) 「拡散混合形ガスバーナ」とは、ガスバーナ内部に配置した別々のノズルから燃料ガスと燃焼用空気を供給した後に点火させる形式のものであって、ある流速で吹出す燃料ガスと燃焼用空気とが、接触混合、すなわち両者の界面での拡散混合によって形成された可燃混合気の部分から燃焼を開始し、継続的に拡散混合しながら燃焼する形式のガスバーナであり、「拡散炎形ガスバーナ」、「外部混合形ガスバーナ」ともいう。なお、被告は、「予混合炎」(Premixed flame)という学術的に確立した用語概念に対応して、「拡散炎」(Diffusion flame)という学術的に確立した用語概念があり、前者に関するバーナが「予混合形ガスバーナ」と呼ばれていることから、これに対応して、「拡散混合」による燃焼(炎)を用いる構造のガスバーナ(Diffusion type gas burner)について「拡散混合形ガスバーナ」なる語を用いているにすぎず、「拡散燃焼式(形)ガスバーナ」や「拡散炎形ガスバーナ」と同義である。

原告は、「拡散混合」を「予混合」と対比して用いるのは適当でない旨主張するが、「予混合」とは「分子レベルまで均一に混合した予混合気」に関する概念であって(乙四)、原告主張の「どの段階において混合しているか」に直接関係する概念ではなく、また「拡散混合」とは分子レベルにおいて不均一な拡散現象(拡散混合)による混合気に関する概念であって、両者は燃焼理論において峻別される全く別異の概念である。

この拡散混合形ガスバーナは、燃焼開始以前に燃料ガスが燃焼用空気と完全均一に混合していない点が、予混合形ガスバーナと基本的に異なり、ガスバーナ内部へ逆火したり爆発したりする危険性がないので、高温予熱した燃料ガスや燃焼用空気を使用することができ、また、燃焼量を絞ってもバーナ内部へ逆火することがない。

(3) 「二段燃焼形ガスバーナ」とは、燃焼による有害な窒素酸化物(NOx)の発生を抑制することを主目的として開発されたガスバーナであり、一段目の燃焼は、燃料ガスが燃焼用空気の一部と混合して燃焼するが、ここで酸素が不足することによって火炎温度が低くなるため窒素酸化物発生量が抑制され、二段目の燃焼は、二次空気用ノズルから噴出する残りの燃焼用空気で燃料ガスの未燃分を完全燃焼させるので火炎温度が低く、ここでも窒素酸化物発生量が抑制される。

(二) 構成要件Aにいう「予混合形ガスバーナ」が右の「全予混合形ガスバーナ」であり、「部分予混合形ガスバーナ」ではないことは、明細書の記載から明らかである。すなわち、明細書の発明の詳細な説明中には、「本発明は、火炎温度が高く短焔の得られる予混合燃焼方式でのバーナータイル面を着火面とする短焔バーナ……に関する」(公報2欄2~7行)と明記されており、この記述は、本件発明が「全予混合」(燃料ガスと燃焼用空気の全量を予め均一に混合させる)概念による構造をもったバーナであることをその技術的特徴をもって直截に摘示するものであり、「バーナタイル1の絞り部分2から噴出される予混合ガス」(同3欄30、31行)、更には「バーナタイル1の絞り部2よりも噴出方向上手側から噴出される予混合ガス」(同4欄5~7行)のいずれもが燃料ガスと燃焼用空気とが予め完全均一に混合された混合気を意味することは、「予混合ガス」という技術用語の意義からして明白であって、この燃料ガスと燃焼用空気とが予め完全均一に混合した「予混合ガス」が噴出する「絞り部2近くで急速燃焼することによって火炎は高温の得られる短焔とな」る(同欄22~24行)のである。

明細書の全記載によるも、本件発明においては燃料ガスとその燃焼に必要な全量の燃焼用空気との「完全予混合」による燃焼に関する技術的思想が明確に開示せられているに過ぎず、「部分予混合」であれば、一次空気の他に二次空気を必要とし(甲八)、燃料ガスと一次空気とを「予混合」したうえ二次空気と「拡散混合」することによる燃焼に関する技術的思想の開示が必要であるにもかかわらず、燃焼用空気としての二次空気を供給するという技術構成の開示はなく、しかも当然のことながら特許請求の範囲の項にも「完全予混合」に関する構成のみが記載されているから、本件発明は明らかに「全予混合形ガスバーナ」に関するものである。

(三) 原告主張の「燃料ガスと燃焼用空気とが完全均一ではなく部分的に混合してバーナタイルの絞り部から噴出する構成」は、「拡散混合形ガスバーナ」そのものであって(乙一)、「部分予混合形ガスバーナ」ですらなく、本件発明の対象ではない。燃焼の分野において、世界で最も権威があるとされる国際会議である「国際燃焼シンポジウム」の論文集によれば、一九五六年の第六回シンポジウム以後現在に至るまで「Premixed」の意味は変わらず、「分子レベルまで均一に混合した予混合気」を意味しており(乙四)、「部分予混合」とは量論比以下の空気が分子レベルまで均一に混合している混合気の状態をいうものであるから、原告が「一部予混合形ガスバーナ」における混合と主張する「空気とガスが完全均一に予混合されているのではなく、両者が部分的に混合され」て燃焼する「一部予混合形ガスバーナ」なるものは存しない。そのような燃焼は「拡散混合」による燃焼そのものであって、「一部予混合形ガスバーナ」の意義についての原告の主張は、「一部予混合形ガスバーナ」と「拡散混合形ガスバーナ」とを混同、同一視するもので、誤っている。また、本件発明は「空気とガスが完全均一に予混合された状態でバーナタイルから噴出するというよりは、むしろ混合状態が不完全なままで噴出される」ものであり、従来の「一部予混合形ガスバーナ」について混合性を向上させた点に特徴があるとの主張は、「予混合形ガスバーナ」を「拡散混合形ガスバーナ」にすり替えるものである。原告は、明細書の発明の詳細な説明の欄の発明の目的、構成、作用効果の記載中で詳細に記述開示されている技術的思想には殆んど完全に目を覆い口を閉ざしたまま、願書添付図面第1図を根拠に「予混合形ガスバーナ」を「拡散混合形ガスバーナ」とすり替えて主張している。

(四) 原告がその主張の前提とする「工業用加熱炉(下巻)」(甲六)及び「燃料と燃焼」(甲七)は、本件特許出願時よりかなり古い時期の出版物であり、燃焼現象に関する今日的意義としての「Premix」の用語が使用されはじめる以前の古い時期における論述又はこれを基礎とする論述である。

すなわち、「工業用加熱炉(下巻)」は、W.TRLNKSが著した「INDUSTRIAL FURNACES VolumeⅡ」の第三版〔一九五五年版〕の翻訳書であり、昭和三二年に発行されている。W.TRINKSは、同書の一九二五年版〔初版〕以来第三版まで、一貫して「premixing」の語を用いているが、これは燃焼理論発展のごく初期の段階において、ガスバーナの基本構造を論述の便宜上大きく三つに分けることとし、「ガスと空気を炉内で、すなわち燃焼中に混合するもの」、「ガスと空気を炉外、すなわち燃焼前に混合するもの」及び「ガスと空気の一部を燃焼室外で混合し、残りの空気は炉内で加えるもの」の三つに分類したうえ、後二者についてそれぞれ著者独自の立場において便宜的に「Premixing」又は「Partial Premixing」の語を用いたにすぎない。未だ「Difusion flame」(拡散火炎)の概念もとり入れられておらず、炉内での混合(Inside mixing)に対する炉外での混合を「Premixing」と表現しているだけであって、これには「分子レベルまで均一に混合する」という今日的意味は含まれていない。その後、燃焼理論が発展して、「分子レベルまで均一に混合する」という意味の「Premixing」の語、「量論比以下の空気が分子レベルまで均一に混合する」という意味の「Partial Premixing」の語が定着することとなったため、W.TRINKS自身、第四版〔一九六七年版〕において、右分類に関する記述を全面的に書き改め、「部分予混合燃焼装置」(Combustion Devices with Partial Mixing)の項目を削除するとともに、概念の混同を避けるために本文記述中において「Premixing」及び「Partial premixing」なる語を注意深く省いている。それを翻訳した「改訂工業用加熱炉(下巻)」(乙五)においても、バーナの基本構造を論述の便宜上大きく三つに分けているが、「炉内でガスと空気を混合するもの」、「二つのパイプを持つバーナ、炉の入口(まだは直前)で混合するもの」及び「単管比例混合バーナ」と分類し直すことによって改訂前の「工業用加熱炉(下巻)」における分類の仕方表現を全く変更してしまっており、しかも、「単管比例混合バーナ」の項(五四頁以下)において今日的な意義における「予混合バーナ」に関する記述をしている他には、「予混合」及び「部分予混合」に関する記述説明を注意深く省いている。

「燃料と燃焼」(甲七)は、昭和四〇年発行の第三版であるが、昭和三七年四月印刷の初版本と全く同一の記述のままであり、本件特許出願時より一〇年以上前の技術水準下における論述であるのみならず、右「INDUSTRIALFURNACES VolumeⅡ」の第四版〔一九六七年版〕が出版されていない当時において、厳密な検討を加えることなく同第三版〔一九五五年版〕の記述をそのまま基本的に転用しているものであって、その「部分予混合バーナ」に関する記述を本件特許出願当時における技術資料とすることはできない。

なお、「燃焼機器工学」(甲八)でも、「拡散燃焼形ノズル」の項において、「この形式のガスバーナは、一次空気の予混合は全然行なわれ」ないと明確に述べることにより、「拡散混合」概念と「予混合」概念とを峻別している。

2  被告物件が本件発明の構成要件Aを充足するか。

【原告の主張】

(一) 被店物件の構成と構成要件Aの対比

被告物件は、ガス供給導管6と一次空気導管11とが二重筒状に配されており、ガス供給導管6から燃料ガスが、また一次空気導管11から燃焼用空気が供給されるようになっており、バーナタイル1にスロート部2が設けられ、このスロート部2は他の部分よりも内径が細く絞られた絞り部分となっている。

また、被告物件は、ガス供給導管6から供給される燃料ガスと、一次空気導管11から供給される燃焼用空気とをバーナタイル1のスロート部2を通して外方へ噴出させるようになっている。ガス供給導管6と一次空気導管11の先端部は、共にスロート部2よりも内側(上流側)に位置するので、これらから噴出される燃料ガスと燃焼用空気とは、スロート部2を通過する間に互いに混合され、予混合ガスとなってスロート部2から噴出される。

すなわち、被告物件は、二重筒状に配したガス供給導管6と一次空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用空気とを混合して、絞り部分を有するバーナタイル1より予混合ガズを噴出せしめる予混合形ガスバーナであり、本件発明の構成要件Aを充足する。

(二) 予混合について

被告物件は、ガスノズルの先端の位置がスロート部より外側(下流側)にあれば拡散燃焼式ガスバーナといえるかもしれないが、実際には、ガスノズルの位置がスロート部よりも内側(上流側)にあるため、燃焼が開始する位置(スロート部の外側開口部付近)では燃料ガスと燃焼用空気とが部分的に混合しているのであるから、本件発明と同じく一部予混合形ガスバーナの構成といえる。

被告物件では、スロート部2より上流側(バーナの奥側)にあるセンターエア吹出口3と該吹出口3の外周部に設けられているガス供給導管6の開口部から空気と燃料ガスがスロート部2に向って吹出され、更にガス供給導管6の外周部に設けられた一次空気導管11からスロート部2に向って燃焼用一次空気が吹出されるのであるから、小径のスロート部2があることにより燃料ガスと燃焼用空気の流れが撹乱され、スロート部2を通過する間にそれらが混合することは明らかである。スロート部2はこのために設けられているのであって、被告主張の如くスロート部2が予混合ガス形成の機能を何ら有しないならばスロート部2を設ける必要はないはずである。したがって、被告物件では、スロート部2よりも吹出方向下手側にある燃焼位置より前で燃焼用空気と燃料ガスが予め混合されるのであり、「予混合ガス」が形成されることに違いはない。

(三) 被告物件が二段燃焼式であることについて

被告物件は、二段燃焼式であるといっても、一部予混合形ガスバーナに外部混合形ガスバーナを付加して二段燃焼式にしたものにすぎない。二段燃焼式ガスバーナ自体は一段燃焼式ガスバーナとともに本件発明の出願前から公知であり、本件発明が一段燃焼式ガスバーナに限定されなければならない理由はない。一段燃焼式であるか二段燃焼式であるかは、本件発明の技術的範囲と無関係であり、二段燃焼式であるからといって本件発明の技術的範囲から外れるものではない。被告物件は、本件発明の構成をそっくりそのまま利用しているのであるから、本件発明の技術的範囲に属することは明らかである。

(四) 着火面について

被告は、被告物件はバーナタイル面を着火面としない旨主張するが、この種のバーナは常識的にはバーナタイル面を着火面とするものである。高温で連続操業を行っているときは、バーナタイル面が発火点以上の高温に加熱された着火面となるので火炎が消えたりせず安定に保たれるが、点火、消火を頻繁に繰り返す場合や、低温操業を行うときは、バーナタイル面が着火温度にならないので、バーナタイル面に点火用のパイロットバーナを設けておく必要があるのもそのためである。この点は被告カタログ(甲三)のパイロットバーナの項にも記載されている。バーナタイルが着火用及び保炎用のものであることは「工業用加熱炉(上巻)」(甲九)及び「工業炉用語事典」(甲一〇)からも明らかである。

検証の結果によれば、被告物件のバーナタイル内壁面の実測温度は、一点が摂氏四五〇度であった他は全て摂氏五〇〇度以上であった。ブタンの着火温度はn-ブタンが摂氏四三一度、イソブタンが摂氏四七六度であるから、バーナタイル内壁面の温度がブタンの着火温度以上となっていることは明らかである。なお、検証の際はバーナをむき出しの状態で燃焼させて測定したが、炉に組み込んで燃焼させた場合は熱が逃げにくいため更に高温となる。

(五) 火炎の長さ及び温度について

明細書の発明の詳細な説明には、火炎温度が高く短炎が得られる旨の記載があるが、これに限定される旨の記載はどこにもなく、発明の技術的範囲を、定める「特許請求の範囲」にもそのような記載は一切ない。一般に、混合がよくなれば火炎は短炎となる。

明細書の発明の詳細な説明の記載(公報4欄5~30行)からは、本件発明の本質的な効果が、燃料ガスと燃焼用空気の撹乱及び燃焼ガスの直進性維持にあることが理解でき、長炎の場合にも、これらの効果を奏する。明細書のこの部分には、炉の中央部に達するまで長く燃焼ガスを確実に噴射させ易い旨記載されている。本件発明は長炎の場合でも効果的なのである。

また、本件発明のガスバーナが摂氏一一五〇度乃至一二〇〇度の比較的低温でも使用され得ることは証人岩倉正義の証言によって明らかである。更に、発明の詳細な説明には「この中心高速噴流がない場合には……火焔の浮上がりを生じる」(公報3欄39、40行)と記載されているが、火焔の浮上がりが生ずるのは一般にターンダウンを行ったときである(証人秋山)から、本件発明がターンダウン(この場合には炉温が低下する)を予想していることは明らかである。

被告は、被告物件は二段燃焼によって火炎温度の低い(摂氏一三五〇度乃至一五四〇度)長炎が得られると主張するが、火炎の長さは火炎形状調節弁によって調節することができ、被告のカタログ(甲三)にも、被告物件が「加熱目的に合わせて火炎の長さを自由に調節できる」ことが特徴として明記されているから、被告物件は短炎でも使用され得るものであり、その火炎は長炎に限られない。

(六) 被告の主張について

本件発明は、「全予混合形ガスバーナ」ではなく「部分予混合形ガスバーナ」であって、「燃料ガスと燃焼用空気とを予め混合した予混合ガス」ではなく、「燃料ガスと燃焼用空気とを部分的に混合した予混合ガス」をバーナタイルより噴出させるものであるから、「完全予混合式ガスバーナ」を前提とする被告の主張は根本的に誤っている。

【被告の主張】

(一) 被告物件の特徴

(1) 被告物件の技術的特徴

被告物件は、バーナがバーナタイル面を着火面としない二段燃焼による拡散混合形長炎ガスバーナであって、その技術的特徴は、燃料ガスを二段階に分けて緩慢に燃焼させることにより火炎を長くするとともに火炎が低温に保たれるため、大型鋼材等の加熱に用いる広い炉幅の工業炉用ガスバーナに最適であり(炉内温度分布の均質性を確保するために長炎を必要とし、かつ低温に適合)、燃焼による有害な窒素酸化物の発生が極力抑制されるのみならず、燃焼量を予混合形ガスバーナの絞り比以上に絞ったり燃焼用空気を予熱してもバーナ内部へ逆火したり爆発したりする危険がなく、常に安定した低温長炎が得られるものにおいて、送風ファンより送られる低圧空気を二段燃焼用の二本の空気導管の他にガス供給導管の中心部に配設したセンターエア導管にも分岐せしめることにより、低圧空気及び燃料ガスの流量調節によりターンダウンした低燃焼負荷時においても、燃料ガスの直進性を保って火炎の舞い上がりを防止するとともに、燃料ガスと燃焼用空気との混合を良好ならしめて負荷調節範囲を広くし、かつ二段階に供給される燃焼用空気の配分量を可変として最適条件のもとでの二段燃焼が可能である。

(2) 被告物件の構造上の特徴

イ号物件の構造上の特徴は、イ号説明書二項(構造の説明)に、第二の二2に記載の被告主張の訂正を加えた構造の結合よりなる点にあり、ロ号物件の構造上の特徴は、ロ号説明書二項(構造の説明)に、第二の二3に記載の被告主張の訂正を加えた構造の結合よりなる点にある。

(二) 被告物件は予混合形ガスバーナではない

被告物件は、ガス供給導管6の吹出口より吹出す燃料ガスの一部と、一次空気導管11より吹出す燃焼用一次空気と、センターエア導管4より吹出す燃焼用空気とがそれぞれ界面で接触し継続的に拡散混合しながら当該燃料ガスの一部を燃焼せしめた後、未燃焼のままの残全量燃料ガスと二次空気吹出ロ19より吹出す燃焼用二次空気とが界面で接触して継続的に拡散混合しながら当該残全量燃料ガスを燃焼せしめる構造の二段燃焼式ガスバーナである。

構成要件Aによれば、本件発明のガスバーナは、燃料ガスと燃焼用空気とを予め完全均一に混合した予混合ガスを絞り部分を有するバーナタイルより噴出せしめる「予混合形ガスバーナ」であるとともに、一段燃焼式ガスバーナであるのに対し、被告物件では、燃焼開始以前に燃料ガスが燃焼用空気と完全均一に混合しておらず、燃焼が燃料ガスと燃焼用空気との接触界面での拡散混合によって順次形成される可燃混合気の部分から開始し、燃料ガスと燃焼用空気が継続的に拡散混合しながら燃焼する構造であり、したがってスロート部2は予混合ガス形成の機能を何ら有していない点及び二段燃焼式ガスバーナである点において、構成要件Aと著しく相違しているから、被告物件は同要件を充足しない。

「一段燃焼形ガスバーナ」と「二段燃焼形ガスバーナ」とは、バーナによる燃料ガスの燃焼機構も燃焼特性も大きく相違しており、「一段燃焼形ガスバーナ」に二次燃焼空気口を設けて「二段燃焼形ガスバーナ」が得られるといった単純なものではない。「二段燃焼形ガスバーナ」が本件特許出願当時公知であったとしても、それを理由として本件発明が「一段燃焼形ガスバーナ」に限定されないとする原告主張には論理の飛躍がある。本件発明は、明細書に記載開示されているところによれば火炎温度が高く短炎の得られる「全予混合形ガスバーナ」に関するものであることは明白であるが、「全予混合形ガスバーナ」は燃焼開始以前に燃料ガスと燃焼用空気の全量とを完全均一に混合させた後に燃焼させるガスバーナであるから、「二段燃焼式」とは全く無縁のものである。

被告物件においても、燃焼位置より前で空気とガスが予め混合され「予混合ガス」が形成される旨の原告主張は、「予混合」に関する、本件特許出願時より数十年前の燃焼理論発展のごく初期段階におけるW.TRINKSによる単なる便宜的な分類を論拠とする点で誤っており、「予混合形ガスバーナ」と「拡散混合形ガスバーナ」との截然たる違いに眼を覆い、「拡散混合形ガスバーナ」である被告物件を「予混合形ガスバーナ」にこじつけようと意図する作為的な主張である。

被告物件の燃焼開始位置では、燃料ガスと燃焼用空気とが予め完全均一に混合しておらず、両者の界面での拡散混合(接触混合)によって順次形成されていく可燃混合気の所要量部分から燃焼が開始するのであって、爾後燃料ガスと燃焼用空気とが継続的に拡散混合を続けながら保炎する。「予混合形ガスバーナ」と「拡散混合形ガスバーナ」との大きな差異は、バーナ開口から噴出される燃料ガスと燃焼用空気とが既に完全均一な混合気となっているか否かにあり、両者はこの点で区別される。被告物件においては、燃料ガスと燃焼用空気とがバーナ外部で拡散混合して所要量の可燃性混合気が順次形成されていくのであるから、「拡散混合形ガスバーナ」の典型例である。なお、燃料ガス流と燃焼用一次空気流と燃焼用二次空気流とがそれぞれ界面で接触しながら継続的に拡散混合する全過程において、吹出し当初においても界面で接触してわずかに拡散混合する現象があり得るとしても、その故に不均一な「拡散混合ガス」が完全均一な「予混合ガス」に転化するいわれはない。

(三) スロート部2の攪拌効果について

本件発明における絞り部2は、高圧気体を噴射する構造を備えた高圧気体噴射ノズル3とともに、本件発明の特徴である「予混合ガス」の形成にかかわるのに対して、被告物件のスロート部2は、センターエア吹出口3及び二次空気吹出口19とともに、燃料ガスと燃焼用空気とを段階的に「拡散混合」させて燃焼させる機能を持つものであって、本件発明の特徴である「予混合ガス」形成には全く関与しない。すなわち、スロート部2は、燃料ガスと燃焼用一次空気との全体的流れの形状をできるだけ断面積の小さい束状として拡散混合(接触混合)を促進させることにより、スロート部の下流において所要量の拡散混合気を形成させて着火せしめるとともに、流量を抑制することにより流れを安定させ、ブローオフ(吹き消え)を防止する機能を持つのであり、原告主張の如き目的で設けられたものではない。

(四) 着火面について

予混合形ガスバーナにおいては、予混合ガスが予め完全均一に混合されているため、願書添付図面第2図に示す如く予混合ガスが絞り部から噴出すると同時にバーナタイル面において着火・保炎する(したがって常に逆火の危険性を持つ)が、被告物件は、拡散混合形ガスバーナであり、燃料ガスと燃焼用一次空気とが順次拡散混合しながら燃料ガスの流れによって保炎されるのであって、バーナタイル面においては着火に必要な所要量の拡散混合気がまだ得られないため、バーナタイル面において着火・保炎しない(逆火の危険性も全くない)。それ故に、「工業用加熱炉(上巻)」(甲九)及び「工業炉用語事典」(甲一〇)においても「バーナタイル面において着火する」とは記載されていない。

なお、被告物件のカタログのパイロットバーナの項の記載に関する原告主張は、パイロットバーナの使用目的に関する当業者の技術常識を無視し、カタログの記載を読み誤った結果である。すなわち、カタログに「高温で連続操業を行っている炉には普通パイロットバーナの連続燃焼は要りません」と記載しているのは、高温による連続操業によって炉内温度自体が高温であるため、燃料ガスが着火しないまま炉内へ流出するという危険性は全くないが、「点火・消化を頻繁に繰り返す場合や、低温操業を行う場合には」炉内温度が常に十分に高温とはいえないため、「パイロットバーナの連続燃焼」がないと燃料ガスが着火しないまま、あるいは火が立ち消えたまま炉内へ流出することによる爆発事故の危険性があるためであり、バーナタイル面自体の着火温度とは全く関係がない。炉には必ず「点火用のパイロットバーナ」を設けておく必要があるのであって、操業態様の違いによって「点火用のパイロットバーナ」自体が不用となることはない。

ガスバーナの連続操業時には炉内温度自体が十分高温であり、燃料ガスが着火しないまま炉内へ流出するという危険性が全くないためパイロットバーナの連続燃焼を必要とせず、この場合において高温の炉内に直面するバーナタイルが「バーナの着火促進、燃焼の安定」に寄与することは否定しないが、このことが被告物件につき「この種のバーナは常識的にはタイル面を着火面とする」との原告主張の論拠となるものではなく、ガスバーナの設計上求められる火炎形状に応じてバーナタイル面を離れて着火・保炎させる構造のものもあれば、バーナタイル面において着火・保炎させる構造のものもあり、拡散混合形ガスバーナである被告物件はバーナタイル面では着火・保炎しない構造である。

(五) 火炎の長さ及び温度について

被告物件が、加熱目的に合わせて火炎の長さを自由に調節できることは原告主張のとおりであるが、これは、「常に安定した低温長炎が得られる」という二段燃焼式ガスバーナの本来的構造を備えているとともに、特に付加した付随的機構である火炎形状調節弁の操作により、加熱目的に合わせて火炎の長さを自由に調節することもできるというだけのことである。

また、被告物件においては、火炎形状調節弁13の外周形状を流路内周より小さくすることにより構造上二次空気の流量が零とならないように設計してあるし、そもそも「二段燃焼式ガスバーナ」は、燃焼に必要な空気を二段階に分けて供給することにより燃焼を二段階に分けて緩慢に行わせ、有害な窒素酸化物の発生を抑制することを目的とするのであるから、二段燃焼式ガスバーナを用いて二次空気を零に調節することによって急速な一段燃焼を行わせるようなことは、バーナの使用目的に全く反し、到底あり得ないことである。

3  被告物件が本件発明の構成要件Bを充足するか。

【原告の主張】

(一) 被告物件は、ガス供給導管6と一次空気導管11の内側の中心軸上に、スロート部2よりも噴出方向上手側から空気を噴射する小径のセンターエア吹出口3が設けられている。

センターエア吹出口3は、一次空気導管11及び二次空気導管16への空気量を調節する流量調節弁Bよりも送風ファンに近い上流側で空気配管と接続されている。この流量調節弁Bは空気流量を絞るための弁で、空気流に対する大きな抵抗となるものであり、これを通る空気の圧力はこの抵抗によって低下する。したがって、センターエア吹出口から吹出される空気は、流量調節弁Bを通らない分だけ燃焼用空気の圧力よりも高圧の気体として噴射される。特に、ターンダウンする場合、すなわち流量調節弁Bを絞って最大量よりも下の燃焼量で運転を行う場合には、センターエアの配管には流量調節弁が設けられていないため、センターエアの流量は変わらないから流速は一定に保たれ、他方、燃料ガスと燃焼用空気の流量はターンダウン比に応じて減少させられ、しかもこれらの吹出口の断面積は変わらないから、これらの噴出流速はターンダウン比に応じて低下する。したがって、ターンダウン時における燃料ガス及び燃焼用空気に対するセンターエアの流速比は、ターンダウン比に応じて増大するから、センターエアの流速が、燃料ガス、一次空気の流速の数倍乃至数十倍になることは間違いない。

被告物件において、センターエア吹出口3から吹き出される空気とガスノズルから吹き出される燃料ガスの流速及び一次空気と二次空気の流速を計算により求めると、別紙流速計算書のとおりであり、これによると、常用範囲内における被告物件のセンターエアの流速は燃料ガス及びセンターエア以外の燃焼用空気の流速の数倍乃至数十倍である。

被告物件のカタログ(甲三)には、「燃料ガスの直進力を大にする」、「燃料ガスと燃焼用空気の混合を良好にする」、「フレームの舞い上がりを防ぐ」等センターエアの効果が記載されている。このような効果は、センターエアが燃料ガス、燃焼用空気よりも高圧かつ高速であることによって得られるものである。

すなわち、被告物件は、ガス供給導管6及び一次空気導管11の両管よりも更に内側のバーナ内中心軸上に、燃料ガス及び燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍速い速度で絞り部であるスロート部2よりも噴出方向上手側から噴射する小径の高圧気体噴射ノズルとして、センターエア吹出口3が設けられており、本件発明の構成要件Bを充足する。

(二) 被告物件は、燃焼用空気導管の芯部にガス供給導管を配し、さらにその芯部にセンターエア導管を設けて、スロート部に上手側からガスとエアを噴出するようにした点で本件発明の前記特徴を備えており、かつ被告カタログに記載されているような効果を得るのである。被告カタログ記載のような効果を得るためには、センターエアの流速はガスと燃焼用空気の数倍乃至数十倍の流速とする必要がある。仮に、センターエアの流速を他と較べて大きくしなくてもある程度の効果が得られるとしても、数倍乃至数十倍とする方がはるかに効果的であることは容易に推測されるところであるから、使用者がそのような使用条件を選ぶことは自明である。

(三) 検証の結果に基づいて、ロ号物件の燃料ガス、燃焼用空気及びセンターエアの流速を計算した結果は、別表の「流速」の欄に記載のとおりである(なお、同欄の括弧内の数字は、検証の際に、被告立会人が被告で使用しているソフトウェアを用いてコンピュータにより計算して得た値であり、原告の計算値とほぼ一致する。)。この結果から見ると、ターンダウン比を2にした条件<4>では、センターエアの流速が燃料ガスの流速の二倍以上、燃焼用一次空気の流速の三倍以上、燃焼用二次空気の流速の四倍以上となっている。右の流速の関係は、イ号物件も同様であると推測される。

更にターンダウン比を大きくした場合には、燃料ガスと燃焼用空気の流量はその比率で減少し、吹出口の断面積は同じであるから、流速は低下する一方、センターエアの流量は変わらないから流速も変わらないので、燃料ガス及び燃焼用空気に対するセンターエアの流速の比率は、ターンダウン比に応じて増大する。したがって、被告物件は、ターンダウン比を二以上とすれば、センターエアの流速は燃料ガス及び燃焼用空気の数倍以上になる。

(四) 被告は、昭和五五年九月一日に考案の名称を「二段燃焼式低圧ガスバーナ」、実用新案登録請求の範囲を「中心部にガスノズルを設け、その外周部に一次燃焼用空気を供給するとともに、さらにその外側から二次燃焼用空気を供給する二段燃焼式ガスバーナにおいて、前記ガスノズルの内部に、バーナ容量の理論空気量の一・五~五・〇%の一定流量の空気または蒸気等を供給するセンタノズルを設ける一方、前記一次、二次燃焼用空気量の割合を調節する流量可変ベーンを燃焼用空気通路に設けたことを特徴とする二段燃焼式低圧ガスバーナ。(但し、昭和六〇年六月七日付手続補正書で、「一・五~五・〇%の一定流量の空気または蒸気等」を「一・五~五・〇%に相当する一定流量の空気」と補正)」とする実用新案登録出願(実願昭五五-一二四九八二号)をし、その拒絶査定に対する審判事件において提出した審判請求理由補充書中で、「一次燃焼空気の吐出速度より速い速度で噴出するセンタエアノズルからの噴出空気により、低負荷燃焼時に火焔の貫通力を大とし、燃料ガスと燃焼用空気との混合も促進され、しかも、ブローオフを生じることがないため、従来のものよりハイターンダウンが可能となるものである。」と記載している(甲一一の1~11、一二の1~9)。被告物件は、右出願技術の作用効果を奏するセンタエアノズルを設けたものであるから、センタエアノズルからの噴出空気が少なくとも一次燃焼用空気の吐出速度よりも速い条件で使用されることは確かであり、この場合、両者の速度比は、ある程度大きい方が効果的であり、少なくとも二倍以上とするのが好ましいことは容易に推測される。

【被告の主張】

(一) 被告物件において、「ガス供給導管6よりもさらに内側のバーナ内中心軸上に燃焼用空気をスロート部2よりも吹出方向上手側から吹出させしめる小径のセンターエア吹出口3を有するセンターエア導管4を配設し」てある点は、スロート部2が燃料ガスと燃焼用空気との予混合形成の機能を有しないため予混合形成の機能を有する本件発明の絞り部2と相違しているのみならず、小径のセンターエア吹出口3を有するセンターエア導管4は、燃焼用空気の流量が送風ファン15から送られる最大負荷空気流量の一乃至三パーセントであって、450mmH2O以下の低圧であるため耐圧構造となっておらず、また、センターエア吹出口3より吹出す燃焼用空気は低圧空気であって、「燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍速い速度」を有する高圧気体に該当しない点において、本件発明の構成要件Bと著しく相違するから、被告物件は同要件を充足しない。

「高圧気体」なる用語は、バーナ業界では絶対的な概念として用いられる語である。工業用バーナ業界における工業用バーナの空気源としては、永年にわたって高圧用にはコンプレッサー又は水蒸気源、低圧用にはファン(ブロア)が主として用いられてきたことから、「高圧気体」と「低圧気体」との圧力の違いはこれに照応して用いられてきており、本件発明における「高圧気体噴射ノズル」から噴出する「高圧気体」は右意味での「高圧気体」である。被告物件における「小径のセンターエア吹出口3」より吹出す燃焼用空気は、送風ファン15から空気配管14を介して送られているのであって、明らかに「低圧気体」であり、被告物件においては、本件発明における「燃料ガス及び燃焼用空気」の速度と対比すべき「高圧気体」はない。しかも、被告物件における所要量の燃焼用空気は、「燃焼用一次空気」と「燃焼用二次空気」の二段階に分けて各別の吹出口から吹出される構造であり、「燃焼用二次空気」は明細書記載の本件発明に固有な各種作用効果に全く関与していない。したがって、「全予混合形ガスバーナ」に関する本件発明と対比するについて、原告の流速計算書における如く、被告物件における「低圧気体」と「燃料ガス」との速度比及び「低圧気体」と所要量の燃焼用空気のうちの「燃焼用一次空気」のみを取り出しての速度比を検討することは、いずれも本件発明との異同を検討するについて対比すべき大前提を見誤ったものであり、ましてや、「低圧気体」と「燃焼用二次空気」との速度比、「低圧気体」と「燃焼用一次空気」及び「燃焼用二次空気」の平均速度との速度比を検討することは、本件発明との対比において全く無意味である。

原告の別紙流速計算書記載値は、流速に関係するバーナ構造を無視して計算している点において誤っているほか、計算式における係数の欠落や条件の見落とし、あるいは使用燃料を取り違える等して、実体とは著しく掛け離れた数値を導いている。

(二) 被告物件のカタログの記載について

原告指摘のカタログに記載の効果は、被告物件のターンダウン時におけるものである。本件発明においては、その経常的使用状態において常時、明細書に記載の作用効果を奏するのであり、本件発明と被告物件とは、その利用する自然法則及び自然法則の利用に関する技術の対象を異にする。本件発明とは異質の技術的特徴を持ち、かつ、構成上及び作用効果上の特徴をも異にする被告物件のターンダウン時におけるセンターエアの流速を、本件発明における「燃料ガス及び燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍速い速度」と同一視し、「センターエアの流速はガスと燃焼用空気の数倍乃至数十倍の流速とする必要がある」、被告物件のターンダウン時において、「センターエアの流速を他と比べて……数倍乃至数十倍とする方がはるかに効果的である」、使用者が被告物件の設計条件を無視したうえ、そのターンダウン時にまで「センターエアの流速を他と比べて……数倍乃至数十倍とする……使用条件を選ぶことは自明である」とする原告主張は全く合理性を欠き、誤っている。

(三) 原告指摘の実用新案登録出願の出願過程における被告の主張も、全て当該考案におけるターンダウンによる「低負荷燃焼時」における作用効果に関するものであり、原告の主張は、低負荷燃焼時の作用効果に関する記載をことさらに経常的燃焼における一般的な作用効果として歪曲主張するもので、誤っている。本件発明は、経常的燃焼時において、燃焼ガスは直線状に長い高速噴流となり、炉の中央部に達するまで長く燃焼ガスを確実に噴射させ易い、という効果を奏するのに対して、右被告考案におけるセンタエアの効果は、ターンダウンによる低負荷燃焼時に、しかも「火焔の貫通力を大とし、燃料ガスと燃焼用空気との混合も促進され」る程度のものであるにすぎないから、原告の、「両者の速度比は、ある程度大きな方が効果的であり、少なくとも二倍以上とするのが好ましい」という主張は誤っている。

4  被告物件は、本件発明の構成要件Cを充足するか

【原告の主張】

被告物件は、内径の絞られたスロート部2よりも外側の噴出方向下手側で燃焼が行われるようになっているので、構成要件Cを充足する。

【被告の主張】

構成要件Cは、絞り部2よりも噴出方向下手側で一段燃焼する構成であるのに対し、被告物件では、スロート部2は本件発明において燃料ガスと燃焼用空気との予混合形成に関与する絞り部2の機能を全く備えていない点、及び「スロート部2よりも吹出方向下手側で二段燃焼する構成」である点において、構成要件Cと著しく相違するから、被告物件は構成要件Cを充足しない。

5  被告物件は本件発明の作用効果を奏するか

【原告の主張】

(一) 被告物件のカタログ(甲三)には、センターエア吹出口から吹き出される空気(センターエア)の効果として、<1> 燃料ガスの貫通力(直進力)を大にする、<2> 燃料ガスと燃焼用空気の混合を良好にする、<3> フレームの舞い上がりを防ぎ、一〇対一以上のハイターンダウンを実現する、と記載されている。右記載によると、被告物件のセンターエアが本件発明の高圧気体と同様な効果を奏していることは明らかである。

(二) 被告が本件発明の欠点として挙げている事項は、すべて「完全予混合式」のガスバーナを前提とするものである。本件発明は「部分予混合式ガスバーナ」を対象とするものであるから、被告の主張は誤った前提に基づくものであり失当である

(三) 被告は、本件発明は、火炎温度が極めて高い短焔(摂氏一八〇〇~一九〇〇度)が得られるガスバーナに関するものであると主張するが、これは燃焼温度の理論値であって、実際には空気を予熱する等の特別な手段を講じない限りこのような高温は得られない。発明の詳細な説明にも「可能なかぎり前記理論値に近づけ」(公報2欄29、30行)と記載されている。また、被告の主張では「燃焼温度」が「火炎温度」と言い換えられているが、この「火炎温度」の定義は不明確であり、このような言い換えは適当ではない。両者は厳密には異なる意味を持つものであり、「新版LPガス技術総覧」(乙三)でも区別されている。

(四) 本件発明では、スロート部を通過する間に燃料ガスと燃焼用空気とが部分的に混合しつつ噴射されるのであるから、常識的な使用条件下であれば、バーナ内部への逆火または爆発の危険はない。仮りに極めて異常な条件下においてバーナ内への逆火のおそれがあるとしても、その点は被告物件においても同様である。

(五) 本件発明における高圧気体は、その外側から供給される燃料ガス及び燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍速い速度で噴射され、渦流を生じさせるとともに、火焔の浮上がりを防止することができる程度に高圧であればよく、高圧気体噴射ノズル3を特別に耐圧構造としなければならないほど高圧である必要はない。

【被告の主張】

(一) 本件発明は「予混合形ガスバーナ」であって、高圧気体の高速噴流と絞り部2との効果的な組合せにより、燃料ガスと燃焼用空気とが予め完全均一に混合した混合気をバーナタイルの絞り部2から噴出させる構成であるから、急速に燃焼することによって火炎温度が極めて高い短焔(摂氏一八〇〇~一九〇〇度)が得られ、レンガの焼成やガラス溶融に用いる工業炉用ガスバーナに好適であるという利点がある半面、高温火炎によって多量の有害な窒素酸化物を発生させることとなる点、燃料ガス又は燃焼用空気の一方又は双方が高温になっているときは、バーナ内部への逆火若しくは爆発によってバーナを損壊する危険があるため、燃料ガスと燃焼用空気の温度が常温に限定される点、また燃焼量を絞りすぎるとバーナ内部へ逆火し、又は爆発する危険があるため、燃焼量の絞り操作に制約を受ける点、燃料ガスと燃焼用空気の流量割合が燃焼範囲にあるときしか燃焼しないため、安定燃焼させるための流量調節をするについて制約を受ける(流量調節範囲が狭い)という欠点がある。なお、原告は、これらの事項は「完全予混合式」のガスバーナを前提とするものである旨主張するが、「予混合形ガスバーナ」は、「全予混合形ガスバーナ」であれ、「部分予混合形ガスバーナ」であれ、常に逆火のおそれがあって特段の注意を要することは当業者の技術常識である(乙一)。本件発明は、「全予混合形ガスバーナ」であって、逆火の危険性があり、慎重な取り扱いが要求される。ちなみに言えば、「部分予混合形ガスバーナ」においても、ほとんどの場合、可燃範囲内の混合気となるので逆火に注意する必要がある。また、摂氏一八〇〇度乃至一九〇〇度というのは燃焼温度の理論値にすぎない旨の原告の主張は、本件発明が対象としている「ガスバーナでは、きわめて高い燃焼温度(例えば1800~1900℃)が要求され、これを達成する手段として……物理的な手段によか燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して過剰空気係数をできるだけ理論値(1・0)に近づける手段」が考えられる(公報2欄8~15行)としたうえ、「本発明は、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、前述の物理的手段による混合性を顕著に高めて可能なかぎり前記理論値に近づけ、短焔を得られると共に燃焼ガスの直進性を高め得て製品の歩留りを向上し得、且つ経済性に富むガスバーナを提供せんとするものである」(公報2欄27~33行)という発明の詳細な説明の記載に反するもので、それを恣意的に歪曲するものである。「火炎温度」が「燃焼温度」と同義の用語であることは、当業者の熟知するところであり(乙三)、明細書においても、同義の温度について「火炎温度」と記載しあるいは「燃焼温度」と記載している(公報2欄2行目と同8行目以下)。

これに対し、被告物件は、二段燃焼式拡散混合形ガスバーナであるため、燃焼開始以前に燃料ガスと燃焼用空気とが完全均一に混合しておらず、かつ二段燃焼によって燃焼が緩慢であるため火炎温度が低い(摂氏一三五〇~一五四〇度)長焔が得られるとともに(このため、大型鋼材等の加熱に用いる工業炉用ガスバーナに最適である)、有害な窒素酸化物の発生を極力抑制することができ、また、ガスバーナ内部へ逆火したり爆発したりする危険がないので、高温予熱した燃料ガスや燃焼用空気を使用することができ、燃料ガスと燃焼用空気の流量を絞ってもバーナ内部へ逆火するおそれもないという優れた利点を有する点において、両者の作用効果は著しく相違している。被告物件は、「拡散混合形ガスバーナ」であって、「予混合形ガスバーナ」ではないため、燃料着火温度をこえて摂氏七〇〇度にまで予熱した燃焼用空気を使用する場合においても、逆火するおそれは全くない。

この相違は、構成要件A関係の構成上の相違に起因するものである。

(二) 本件発明は、その構成上の特徴により、「バーナ内中心軸上で燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍も速い高圧気体が噴射され、しかもその噴射方向下手側にバーナタイル1の絞り部2が存するため、高圧気体の外周部から供給される燃料ガスおよび燃焼用空気は、噴出方向に短かい距離内で急激に進路をバーナ内中心側に変更され乍ら攪乱され、高圧高速気体の周部で無数の渦流を生じた合成噴流となり乍ら狭い絞り部2をくぐり抜けた後、バーナタイル1表面との間で更に多数の渦流を発生して、この絞り部2近くで急速燃焼することによっで火炎は高温の得られる短焔となり乍らも、その燃焼ガスは直線状に長い高速噴流となり、炉の中央部にまで燃焼ガスが至らぬうちに上方に逃げ出してしまうような虞れがなく、炉の中央部に達するまで長く燃焼ガスを確実に噴射させ易く、レンガ焼成等の炉に適用する場合にはその製品の歩留りを向上し得る」(公報4欄13~30行)という優れた作用効果を奏する反面、燃料ガスと燃焼用空気の流量を絞り込むことは逆火又は爆発のおそれがあって不可能に近いという欠点がある。

これに対して、被告物件においては、バーナ内中心軸上でセンターエア吹出口3より最大負荷空気流量の一乃至三%であって、450mmH2O以下の低圧の燃焼用空気が吹出し、燃料ガス及び燃焼用一次空気とともにその吹出方向下手側にバーナタイル1のスロート部2を通過する辺りから継続して緩慢に拡散混合が始まり、スロート部2を通過した後バーナタイル面から若干離れて燃焼が開始し、爾後燃料ガスの一部がさらに緩慢に燃焼した後に残全量未燃焼ガスが燃焼用二次空気と拡散混合しながら緩慢に燃焼することにより温度の低い長炎が得られるが、燃料ガスと燃焼用空気の流量を絞ってもバーナ内部へ逆火したり爆発する危険がないため、燃焼用一次空気量及び燃焼用二次空気量の配合割合とともに燃料ガスの流量を必要に応じて変えることができるから、常に最適な二段燃焼を行うことが可能であり、所望の温度及び長さの火炎を得ることができ、さらに燃焼用一次空気及び燃焼用二次空気と燃料ガスの流量調節によるターンダウン時においても、センターエア吹出口3からは低圧空気の一定量が吹出しているため火炎の舞い上がりがなく、かつ燃焼用空気と燃料ガスとの混合が悪化することがないため、良好な燃焼状態が得られることとなって、ハイターンダウンが可能となるという数々の優れた利点を備えている。

この相違は、構成要件B関係の構成上の相違に起因するものである。

(三) 本件発明は、「高圧気体を燃焼用空気や燃料ガスよりも内側のバーナ内中心軸上から噴射するものであるから、高圧気体の外周側の燃焼用空気や燃料ガスに対して吸引作用を与えることとなり、バーナ外周側の燃焼用空気や燃料ガスを高圧で圧送する必要なく、従ってバーナ自体を気密および耐圧構造とする必要」はない(公報4欄31~37行)が、この記載からは、「バーナ自体を気密および耐圧構造とする必要もなくその制作上の制約が少ない」という利点は「高圧気体」を噴出する高圧気体噴射ノズル3のみを耐圧構造とするという前提のもとにおいて理解することができるから、本件発明には、高圧気体噴射ノズル3を耐圧構造としなければならず、危険防止と機構上の安全保持のための特別の材質と構造を必要とするという欠点がある。これに対し、被告物件のセンターエア吹出口3及びセンターエア導管4は450mmH2O下の低圧空気を吹出さしめるためのものであるから、何らの耐圧構造を必要とせず、構造簡単にして経済的であるという優れた利点を有している。

この相違は、構成要件C関係の構成上の相違に起因するものである。

第三  争点に対する判断

一  構成要件Aにいう「予混合形ガスバーナ」の意義

1  結論

構成要件Aにいう「二重筒状に配したガス供給導管6と空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用空気とを混合して絞り部分を有するバーナータイルより予混合ガスを噴出せしめる予混合形ガスバーナ」の「予混合ガス」は、燃料ガスとその完全燃焼に必要な燃焼用空気の全量を混合した混合気を意味し、「予混合形ガスバーナ」は、絞り部分の上流側で燃料ガスとその完全燃焼に必要な燃焼用空気の全量を供給し、遅くとも絞り部分から噴出するまでにその全量を混合したうえで、その混合気を絞り部分より噴出せしめる構造のガスバーナに限定されると解さざるを得ない。その理由は以下のとおりである。

2  出願当時の用語例

本件特許出願当時に発行されていた文献には次のような記載がある。

(一) W.TRINKSが著した「INDUSTRIAL FURNACES VolumeⅡ」の第三版〔一九五五年版〕を翻訳して昭和三二年に初版が、昭和三九年に七版が発行された「工業用加熱炉(下巻)」(鈴木・井田共訳、株式会社コロナ社、甲六)では、工業用炉に用いられるガスバーナを、「A ガスと空気を炉内で、すなわち燃焼中に混合するもの.B ガスと空気を炉外、すなわち燃焼前に混合するもの.C ガスと空気の一部を燃焼室外で混合し、残りの空気は炉内で加えるもの.」の三種類に分類し(四五頁)、Aのものを「炉内でガスと空気を混合する装置」と呼び(四六頁)、Cのものを「部分予混合燃焼装置」と呼んで、「一部予混合を行うバーナ中最も広く使われているのはノズル混合バーナである.ガスと空気は同心円の環状隙間または放射状の隙間からそれぞれ一つおきに流入する.」と記載し(五四頁)、「簡単なノズル混合バーナ」の例として、別紙工業用加熱炉(下巻)掲載図38を図示して、ガス噴出口と炉入口の距離(同図<1>-<2>)が非常に長ければ予混合は良好となり、ガスと空気の混合が行われる同図の点線で示される頂角二〇度の円錐が管壁と接すればガスと空気の混合は完了し、もしガスの流速が空気の流速よりもかなり早ければ、混合は急速に行われる旨記載し(五六頁)、続いて、Bのものを「空気とガスをあらかじめ混合するバーナ」と呼び、「燃料ガスと空気をあらかじめ完全に混合する方法には数種類ある.すなわちガスと空気は別々のダクトでバーナまで送りバーナの直前で混合するもの、ガスと空気を送風機またはポンプ中で混合し混合気を圧送するもの、ガスまたは空気のいずれか一方を噴出し、他方を吸引するものなどである.」と記載し、更に「一部予混合式バーナの項で述べたバーナ中には、バーナタイルの手前で空気とガスの全量が混合するように変更できるものもある」として、前記図38のバーナの炉の手前の管の水平部分を延長することをその例としてあげている(六〇頁)。なお、同書は、工業用加熱炉の教科書として日本国内で永年広く読まれ、日本国内におけるこの分野の技術的背景に大きく影響した書物である(弁論の全趣旨)。

(二) 昭和三四年一二月に発行された「工業大事典2」(平凡社)の「ガスバーナ」の項目には、「ガスと空気の混合の仕方でガスバーナをつぎのように分類する。 (1) 空気とガスを別々に炉に送りこむもの この形式のものでは炉内でガスと空気が徐々に混合するので、広い面積にわたって一様な加熱ができる。…… (2) 空気の一部をあらかじめ混合する形式 小形、中形の炉では炎をみじかくし温度を高くするために空気の一部をあらかじめ混合する。もっともひろくもちいられる形式である。空気を混合させる方法としては、ガスをいきおいよく噴出させ、まわりの空気を吸い込むのがふつうである。 (3) 必要な空気全部をあらかじめ混合する形式 高温操作が要求される炉でもちいられる形式である。この場合は火がもどって混合部が爆発しないために噴出速度を大きくするが、吹消えをおこしやすいので特別な工夫が必要である。最近は放射バーナがもちいられる。」との記載がある。

(三) 昭和三五年六月に初刷が、昭和三九年一〇月に六刷が発行された「機械工学便覧改訂第4版」(日本機械学会編)第一二編二六頁「ガス燃焼」の項目には、「ガス燃焼は大別すると燃料と空気をあらかじめ混ぜない場合と、完全に混ぜた場合およびその中間に分けられる.前者は空気と燃料との拡散によって燃焼するので拡散燃焼、後者を混合気燃焼という.」との記載、同二八頁「気体燃焼装置」a「設計の方針」の項目には、「炎の長さなどによって拡散燃焼か混合気燃焼かを決め……」と、同b「構造」の項目には、「急速な燃焼には空気と燃料をあらかじめ混合することが多い.」との記載がある。

(四) 昭和三七年五月に初版が、昭和四〇年に三版が発行された「燃料と燃焼」(田中楠弥太編、昭晃堂)では、ガスバーナを空気とガスの混合の方法によって、「拡散燃焼バーナ」、「完全予混合バーナ」及び「部分予混合バーナ」に分類し、「拡散燃焼バーナ」は「燃料ガスと空気が別々の口から燃焼室に入るものである。燃焼室内では両者は界面で乱流および自然拡散で互にまじりあって燃焼する。したがって火炎は長くなる。」、「完全予混合バーナ」は「燃焼前に燃焼用空気とガスが完全に均一な混合気となるもので燃焼はきわめて短い時間に狭い火炎層の中で行なわれる。」、「部分予混合バーナ」は「前二者のせっちゅう型で燃焼前に空気の一部をガスに混合し、残りの空気は拡散燃焼方式で火炎の中に入りつつ燃焼する。」と説明し(二一一頁)、「ノズル予混合バーナ」を「完全予混合バーナ」の一種として「次の部分予混合バーナと構造上区別が困難なことが多いが、2次空気を必要としない.」と記載し(二二七頁)、「部分予混合バーナ」の項では、「ガスと空気の一部をあらかじめ混合するバーナと、前の完全予混合バーナとの相違は実際には不明瞭であることが多い。」と記載している(二二八頁)。

(五) 日本工業規格(JIS)の「工業用燃焼装置用語(液体及び気体燃料)」(B0113-1967)では、用語「内部混合式ガスバーナ」について、意味は「バーナの内部または別に設けた混合室で、ガスと燃焼用空気の全量を混合してバレナから吹き出して燃焼を行なう形式のガスバーナ.」と規定して、これまでの用語または慣用語は「全予混式ガスバーナ、全混気式ガスバーナ」、米・英用語は「premixing type gas burner」と付記し、用語「半混合式ガスバーナ」について、意味は「ガスと燃焼用空気の一部を内部混合して燃焼を行なう形式のガスバーナ。」と規定して、これまでの用語または慣用語は「アトモスヘリックバーナ」、米・英用語は「partial premixing type gas burner」と付記し、用語「外部混合式ガスバーナ」について、意味は「ガスバーナノズルの先端部で、ガスと燃焼用空気を接触混合して燃焼させる形式のガスバーナ。」と規定して、これまでの用語または慣用語は「ブラストバーナ」、米・英用語は「non-premixing type gas burner」と付記し、用語「さか火防止装置」の意味中には「予混合ガス(あらかじめ空気に燃料を混合させ噴霧したガス体)……」との記載があり、用語「予混合燃焼」について、意味は「あらかじめ燃料と空気を混合して燃焼させること.」と規定して、米・英用語は「premix combustion」と付記し、用語「拡散燃焼」については、意味は「燃料と空気を混合しながら燃焼させること。」と規定して、米・英用語は「diffuse combustion」と付記している。なお、右規格は昭和五四年に改正されて、「内部混合式ガスバーナ」は「全予混合式ガスバーナ」と、「半混合式ガスバーナ」は「部分予混合式ガスバーナ」と用語を変更しているが、用語の意味に変更はない(JIS B 0113-1979、甲五)。

(六) 昭和四三年一月に発行された「機械工学便覧改訂第5版」(日本機械学会編)第一二編三一、三二頁「ガスバーナ」の項目では、ガスバーナを「拡散燃焼バーナ」、「予混合バーナ」、「完全混合形バーナ」、「熱ふく射形バーナ」及び「熱ふく射管バーナ」の五つに分類し、「拡散燃焼バーナ」について、「一次空気を混入せず、炉内空気または二次空気によって燃焼するものであって、逆火や焼損のおそれがなく……」、「予混合バーナ」について、「一次空気を燃料ガスと均一に混合してバーナに供給するため、完全燃焼に近くてすすを全く出さないですむこと、空間熱負荷を高くすることができること、高温が得られやすいなどの利点がある.これにはいろいろな形式があるが、送風機を使用せず200mmAq以下の管内圧だけで空気を吸引する常圧バーナ(第37図)、逆に加圧空気をノズルから噴出して大気圧近傍の燃料ガスを吸引・混合する空気圧バーナ(第38図)、燃料ガスおよび空気を別の送風機によって噴出・混合させるガス・空気圧入混合形バーナ(第39図)などがある.」、「完全混合形バーナ」について、「とくに高温操作の炉において単位面積あたりの発生熱量の大きなことが要求される場合には、一次空気を理論空気に近く、またはそれ以上にあらかじめ混合して急速な燃焼を行なわせることがある.この場合には炎後退と吹切れの間の余裕が少ないので、実際は混合ガス流がひろがって流速が小さくなったところで白熱した固体着火源による安定燃焼を行なわせる.その例を第40図に示す.第41図に示したような液中バーナもその例である.」と記載して、別紙機械工学便覧改訂第5版掲載図記載の第37図((a)~(d))、第38図((a)、(b))、第39図((a)~(c))、第40図((a)~(c))及び第41図を図示している。

(七) 昭和四三年五月に第一刷が発行された、「改訂三版化学工学便覧」(化学工学協会編)一一二六頁以下の「燃焼の基礎」の項目では、「ガス燃焼」を「拡散炎」と「予混合炎」に分類して、「拡散炎」について、「大気中に一次空気を含まない燃料ガスを噴出させて着火すると……拡散炎になる.」と記載し、「予混合炎」を「一次空気を含む燃料ガスの炎」と説明したうえで、「さて工業的バーナーでは一般に一次空気を理論空気量に比べて半分以下に押えるので円すい形の火炎面を通過したガス中にも50%以上の可燃分が存在するわけであるが、これは大気中あるいは二次空気流から乱流拡散によって混合してくる空気によって燃焼されつくされることになる.」と記載し、一一三四頁以下の「燃焼装置」の項目では、ガスバーナを、燃焼形式により、「拡散炎方式」、「予混合炎方式」及び「完全予混合炎方式」の三つに分類し、その例として、別紙改訂三版化学工学便覧掲載表記載の表を掲載している。

(八) W.TRINKSが著した「INDUSTRIAL FURNACES VolumeⅡ」の第四版〔一九六七年版〕を翻訳して昭和四四年一〇月に発行された「改訂工業用加熱炉(下巻)」(鈴木・井田共訳、株式会社コロナ社、乙五)では、ガスバーナを、「Ⅰ 炉内でガスと空気を混合するもの」、「Ⅱ 二つのパイプを持つバーナ、炉の入口(または直前)で混合するもの」及び「Ⅲ 単管比例混合バーナ」の三つに分類して、Ⅲの一種として「トンネルバーナ」(公報2欄6行参照)をあげ(二九、三〇頁)、五四、五七、六三、六四頁で「予混合バーナ」の語を用いているが、その定義はしていない。

(九) 昭和四五年一〇月に発行された「燃料・燃焼器具概論」(斉藤茂夫著、共立出版株式会社)一三三頁以下では、ガス燃焼器具を一次空気量の割合で、「(1) ガスをそのまま炎口から出すもの。1次空気なしで拡散燃焼するもので、全2次空気式、赤火式ともいう。(2) ガスにある割合で1次空気を混ぜるもの。予混合燃焼方式でいわゆるブンゼン式とか1次空気式という。(3) ガスに初めから燃焼に必要な全空気量を混ぜるもの。固体の表面燃焼と似た状態なので表面燃焼、または全1次空気式またはシュバンク式、ウルトラレイ式などの呼び名がある。」と分類し、(2)につき「この方式は、ガスをノズルから噴出させるときの勢いで空気を吸い込み混合気としてから炎口より噴出させて燃焼するものである。」、(3)につき、「この方式は、燃焼に必要な空気を全部、1次空気として取り入れてから可燃混合気として炎口近くで燃焼するものである。」と説明されている。

(一〇) 昭和四六年九月に発行された「燃焼機器工学」(辻正一著、日刊工業新聞社、甲八、乙九)には、「気体燃料を燃焼させるには、気体燃料と空気(あるいは酸素)とをあらかじめ均一に混合してから燃焼室へ導き燃焼させる方式と、ガスと空気を別々の口から燃焼室へ導いて燃焼させる方式に大別される。前者を予混合燃焼(premixed combustion)方式、後者を拡散燃焼(diffusion combustion)方式というが、実用されている燃焼装置では、その中間すなわち部分予混合燃焼方式も適用されている。」(一三頁)、「ガスバーナは、その燃焼機構から予混合燃焼形と拡散燃焼形に分類できる」(一一九頁)と記載し、「予混合燃焼形ノズル」の項で、「この形式のガスバーナは、ノズルより燃料ガス(あるいは空気)を噴出し、その運動量により空気(あるいは燃料ガス)を吸引し、吸引管内部でガスと空気を混合させ、その混合ガスを先端より噴出し燃焼するものが多い.このような予混合燃焼形のガスバーナは、……一般に使用されているものは、理論空気量の10~50%を一次空気として吸引する部分予混合形のものが多く、なかには完全混合形のものもある.」(一一九頁)、「拡散燃焼形ノズル」の項で、「この形式のガスバーナは、一次空気の予混合は全然行なわず、ガスのみがノズルより噴出し、燃焼は外側から混合してくる空気によって行なわれる.」(一二五頁)と記載し、「燃焼機器の種類・構造」の「ガスバーナ」の項目(一八五~一九五頁)では、「拡散燃焼方式」と「予混合燃焼方式」に大別し、前者について、「拡散燃焼ガスバーナは、ガスと空気を別々に噴出し、拡散混合しながら燃焼せしめるバーナで、操作範囲が広く、逆火の危険性が少ない.」(一八六頁)、後者について、「予混合燃焼ガスバーナでは、燃焼するまえに空気あるいは酸素とガスを混合して燃焼させるバーナで、一般に燃焼負荷が大で火炎温度が高いが、逆火の危険性がある.」としたうえで、「完全予混合形」の項で、「予混合形ガスバーナでは、ガスと空気を燃焼するまえに混合する必要があるので混合器が必要となる.」(一九二頁)、「完全予混合形ガスバーナでは、火炎の長さが短く火炎からのふく射伝熱が小さいので、火炎で耐火物を加熱し、耐火物からのふく射熱で間接に被熱物を加熱する場合が多い.」(一九三、一九四頁)、「部分予混合形」の項で、「ガスと燃焼用空気の一部とをあらかじめ混合してノズルから噴出させるバーナで、二次空気は誘引される場合が多い.」(一九五頁)と記載されている。

3  右各文献の記載は、用語や、各種ガスバーナをどの類型に分類するかで一致しない点はあるが、右各記載を総合すると、本件特許出願当時、ガスバーナの形式についてよく用いられる分類方法に、ガスと燃焼用空気の混合を、炉との関係でどの部分(場所)で行うか、燃焼開始との関係でどの時点で行うかを基準とした分類があり、ガスと燃焼用空気を炉外で、すなわち燃焼開始前に予め混合して、その混合気をバーナから炉内に吹き出して燃焼(予混合燃焼)させる形式のガスバーナを一般に、「予混合バーナ」、「予混合炎方式のガスバーナ」、「予混合方式のガスバーナ」、「予混合燃焼ガスバーナ」等と「予混合」の語を用いて表現していたこと、しかし、その場合に、<1> ガスと燃焼用空気の全量を炉外で燃焼開始前に予め混合する形式のもの(「全予混合式ガスバーナ」)と、燃焼用空気の一部のみを炉外で燃焼開始前に予め混合し、残りの燃焼用空気は燃焼開始後に炉内で残燃料と拡散混合しながら燃焼させる形式のもの(「部分予混合式ガスバーナ」)の両者についてその語を用い、その前に「完全」又は「部分」をつけて区別するか(2(四)(一〇))、<2> 前者のみについてその語を用いるか(2(八))、逆に、<3>後者のみにその語を用いて分類し、前者については「完全混合」、「完全予混合」などの語を用いて別に分類するか(2(六)(七))は必ずしも一致していなかったこと、後者の形式のガスバーナとして分類されるものには、燃焼用空気を「一次空気」と「二次空気」に分けて供給し、一次空気は炉外で混合して二次空気は炉内で混合する形式のもの(以下「二次空気を別に供給する部分予混合式ガスバーナ」という。)が多いが、前記2(一)の図38のものの如く、燃焼用空気の供給はまとめて行うが、そのうちの一部だけを炉外で混合し、未混合部分が残った状態で炉内に噴出して、残部は炉内で混合しながら燃焼させる形式のもの(以下「未混合空気を残す部分予混合式ガスバーナ」という。)も「一部予混合式バーナ」に分類する例もあることが認められ、本件発明の構成要件Aにいう「予混合形ガスバーナ」が、このうち、どの範囲までのものを対象とする趣旨かは、特許請求の範囲の記載のみでは明らかでない。

なお、被告は、「予混合ガス」とは、「燃料ガスと空気とを予め分子レベルまで均一に混合した混合気」を意味し、「予混合形ガスバーナ」とは、そのような混合気をバーナから噴出させるものであり、それは本件特許出願当時確立した技術用語であった旨主張し、大阪大学工学部機械工学科香月正司助教授作成の「部分予混合火炎の定義について」と題する書面(乙四)には、燃焼の分野で、世界で最も権威がある国際会議とされる国際燃焼シンポジウムの論文集では、一九五六年以後現在まで「Premixed flame」という語の「premixed」は、分子レベルまで均一に混合した予混合気の意味で使用されている旨記載され、一九六九年に第一版が発行された「Flame and Combustion Phenomena」(John N.Bradley)には、「……,the reactant gases are intimately mixed and the flame is said to be a pre-mixed flame.」という記載があって(乙七の一)、「intimate」には「(分子・元素などの)密接に結合した」という意味があることが認められ(乙七の二)、証人秋山鉄夫も右被告主張に沿う供述をする。しかしながら、右「部分予混合火炎の定義について」と題する書面にも、W.TRINKSの「INDUSTRIAL FURNACES」第三版までの「Premixing」の語には、右のような意味は含まれておらず、燃焼に先立って空気と燃料を予め混合するという意味で用いている旨記載されているし(乙四)、その他の前記2の各文献を見ても、(四)(六)(一〇)の各文献では「均一」な混合である旨の説明があるが、被告主張の如く「分子レベルまで均一」であることを要するか否かは明らかでないし、その他の文献では混合の程度には論及しておらず、燃焼に先立って空気と燃料を予め混合するという程度の意味で用いられていると考えられるものもあるから、本件特許出願当時、「予混合ガス」及び「予混合形ガスバーナ」の語が、被告主張の意味で確立した技術用語であったとは認め難い。

4  明細書の発明の詳細な説明の記載

(一) 明細書の発明の詳細な説明には、発明の目的に関して、まず、「本発明は、火炎温度が高く短焔の得られる予混合燃焼方式でのバーナータイル面を着火面とする短焔バーナで且つ燃焼ガスは直線状に高速で噴射されるものであり、例えばレンガの焼成やガラス溶融のために用いる超高温トンネルバーナとして用いるに好適な工業用ガスバーナに関する。」(公報2欄2~7行)と、産業上の利用分野を記載したうえ、「このようなガスバーナでは、きわめて高い燃焼温度(例えば1800~1900℃)が要求され」ると達成すべき目的を明示し、これを達成する手段として、「<イ> 燃焼用空気の予熱温度を上げる手段」と「<ロ> 物理的な手段により燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して過剰空気係数をできるだけ理論値(1・0)に近づける手段」の二通りが考えられるが、<イ>、<ロ>の手段を用いる従来技術にはいずれも問題点がある旨の指摘をしたうえで、「本発明は、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、前述の物理的手段による混合性を顕著に高めて可能なかぎり前記理論値に近づけ、短焔を得られると共に燃焼ガスの直進性を高め得て製品の歩留りを向上し得、且つ経済性に富むガスバーナを提供せんとするものである。」(公報2欄8~33行)として、本件発明が解決しようとする問題点を従来技術との関連において明記している(甲二)。

右の「本発明は、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、前述の物理的手段による混合性を顕著に高めて可能なかぎり前記理論値に近づけ、」という記載は、その文脈からして、従来技術における、<ロ>の「物理的な手段により燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して過剰空気係数をできるだけ理論値(1・0)に近づける手段」を改良して、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、物理的手段による混合性を顕著に高めて、燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して過剰空気係数を可能な限り右理論値(1・0)に近づけるという趣旨であることが明らかである。そして、「過剰空気」とは、実際の燃焼においては、理論空気量(燃料の完全燃焼に理論上必要な空気量)だけでは空気が燃料の各部分に十分に行き渡らないために一部で不完全燃焼を起こしたり、また全く燃焼しないで放出される部分が生じたりして完全燃焼しないことから、完全燃焼させるために理論空気量より過剰に供給する空気を意味し、「過剰空気係数」とは、実際に使用した空気量の理論空気量に対する比を意味するから(昭和四二年発行「ボイラおよび蒸気タービン」〔小林恒和著、株式会社明現社〕一二九~一三一頁、昭和四六年発行「燃焼工学」〔吉田高年編、共立出版株式会社〕二八、二九頁、JIS B0113-1967、同1979)、発明の詳細な説明の右記載は、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、物理的手段による混合性を顕著に高めて、燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して、完全燃焼に必要な過剰空気の量を減らして燃焼用空気の量を可能な限り理論空気量に近づけることを意味することが明らかであり、更に、一般に、過剰空気が多いと燃焼温度が低下する不都合があるとされている(前記「機械工学便覧改訂第4版」第一二編二七頁、前記「燃焼工学」二九、三〇、五四頁、昭和四三年発行の「燃料と燃焼の化学」〔神谷佳男著、大日本図書株式会社〕一五〇頁、証人岩倉)ことと右の産業上の利用分野や従来技術に関する記載部分に照らすと、右の如く混合性を向上させて過剰空気量を減らすのは、過剰空気による燃焼温度の低下を防止して、「例えばレンガの焼成やガラス溶融のために用いる超高温トンネルバーナとして用いるに好適な工業用ガスバーナ」(公報2欄5~7行)で要求される極めて高い燃焼温度を達成する(公報2欄8、9行)という課題を解決するためであることが明らかである。

ところが、前記各文献によれば、二次空気を別に供給する部分予混合式ガスバーナでは、極めて高い燃焼温度を達成するという目的はなく、予め混合される一次空気は燃料ガスの完全燃焼に必要な燃焼用空気の一部のみであり、一次空気のみで燃料ガスを完全燃焼させるのではなくその未燃焼燃料ガスを燃焼させるための空気(二次空気)は別に供給する構造のものであって、一次空気のみによる燃料ガスの完全燃焼をそもそも予定しておらず、予め混合される一次空気については過剰空気は存在しないものと認められ、二次空気とあわせて考えれば過剰空気は存在するであろうけれども、「バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合せにより……物理的手段による混合性を顕著に高め」(公報2欄27~29行)ても、二次空気と燃料ガスとの混合性には無関係であるから、全体としての過剰空気量減少の効果は大きくない(したがって、過剰空気係数をできるだけ理論値に近づけることにより極めて高い燃焼温度を達成するということもできない。)し、未混合空気を残す部分予混合式ガスバーナの場合も、未混合部分を残すことを予定する構造であるから、やはり全体としての過剰空気量減少の効果は大きくない(したがって、過剰空気係数をできるだけ理論値に近づけることにより極めて高い燃焼温度を達成するということもできない。)ことが明らかであり、右記載は、燃料ガスと燃焼用空気の全量を予め混合する形式のガスバーナに関する記載であることが明らかである。

また、燃料ガスと燃焼用空気の全量が予め混合された場合、特にその混合が良好な場合には、燃焼は極めて短い時間内に狭い火炎層の中で行われるため、火炎の長さが短く、すなわち「短焔」となる(前記「燃料と燃焼」二一一頁、前記「燃焼機器工学」一九三頁)のであるから、右の「……短焔の得られる予混合燃焼方式での……短焔バーナで……」や、「短焔を得られる……ガスバーナを提供せんとするものである。」という記載も、燃料ガスと燃焼用空気の全量を予め混合する形式のガスバーナを念頭に置いた記載であることが明らかである。

(二) 明細書の発明の詳細な説明には、更に、発明の構成の実施例が記載されたうえで、「上記構成におけるバーナにあっては、高圧気体……の噴流を燃料ガスノズル7および強制送風路12から噴出される燃料ガスや燃焼用空気よりも数倍ないし数十倍の高速でその中心部において小径の噴射ノズル3からバーナタイル1の絞り部2の中心を通して噴出せしめるものであるから、この中心噴流の活発な乱流と絞り部2により燃料ガスと燃焼用空気との混合を良好にならしめるとともに、バーナタイル1の絞り部分2から噴出される予混合ガスの流線は、その中心高速噴流の存在により第2図イ、ロの通りとなり、合成噴流の外側部と末広がりのバーナタイル1表面との間に多量の渦流が発生し、それらがバーナタイル1表面で連続的な爆発燃焼を起すことによって、燃焼効率の高い高温にして短焔が形成され、且つ燃焼ガスは直線状に長い高速の噴流となる。」(公報3欄21~38行)と、本件発明の作用効果が記載されているが、二次空気を別に供給する部分予混合式ガスバーナでは、予め混合している一次空気で燃焼可能な燃料ガスはバーナタイル表面で急速燃焼するが、残燃料ガスと二次空気とは、バーナタイル付近で混合するような特別な措置を講じない限り、「バーナタイル1表面で連続的な爆発燃焼を起すこと」はなく、バーナタイルから離れた位置で拡散混合しながら徐々に燃焼するし、未混合空気を残す部分予混合式ガスバーナの場合でも、「バーナタイル1表面で連続的な爆発燃焼を起す」のは予混合気部分のみであり、その余は、バーナタイル付近で混合するような特別な措置を講じない限り、拡散混合しながらバーナタイルから離れた位置で徐々に燃焼し、いずれの場合も、火炎は、短焔ではなく長焔となることが明らかであり、発明の詳細な説明中には、それらの場合に火炎を短焔とするための特別な手段については何ら言及されていない。したがって、右作用効果に関する記載も、燃料ガスと燃焼用空気の全量が予め混合された場合に生じる作用効果を記載しているといわざるを得ない。

(三) また、本件発明の効果として、「本発明によるときは、バーナタイル1の絞り部2よりも噴出方向上手側から噴出される予混合ガスの中心に高速噴流を生じせしめることにより、それら合成噴流の外側部とバーナタイル表面との間に多量の渦流を生じさせる新規な流線を得しめるものであるが故に、次の利点を有する極めて有効な工業用(裁判所注・公報4欄11行の「山」は誤記と認める。)バーナを提供するに至ったものである。即ち、バーナ内中心軸上で燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍も速い高圧気体が噴射され、しかもその噴射方向下手側にバーナタイル1の絞り部2が存するため、高圧気体の外周部から供給される燃料ガスおよび燃焼用空気は、噴出方向に短かい距離内で急激に進路をバーナ内中心側に変更され乍ら撹乱され、高圧高速気体の周部で無数の渦流を生じた合成噴流となり乍ら狭い絞り部2をくぐり抜けた後、バーナタイル1表面との間で更に多数の渦流を発生して、この絞り部2近くで急速燃焼することによって火炎は高温の得られる短焔となり乍らも、その燃焼ガスは直線状に長い高速噴流となり、炉の中央部にまで燃焼ガスが至らぬうちに上方に逃げ出してしまうような虞れがなく、炉の中央部に達するまで長く燃焼ガスを確実に噴射させ易く、レンガ焼成等の炉に適用する場合にはその製品の歩留りを向上し得るものである。また、高圧気体を燃焼用空気や燃料ガスよりも内側のバーナ内中心軸上から噴射するものであるから、高圧気体の外周側の燃焼用空気や燃料ガスに対して吸引作用を与えることとなり、バーナ外周側の燃焼用空気や燃料ガスを高圧で圧送する必要なく、従ってバーナ自体を気密および耐圧構造とする必要もなくその制作上の制約が少ない利点もある。」(公報4欄5~38行)と記載されており、右のうち「この絞り部2近くで急速燃焼することによって火炎は高温の得られる短焔となり」との記載も、前同様に、燃料ガスと燃焼用空気の全量が予め混合された場合に生じる効果を記載していると解さざるを得ない。

5  以上の事実によれば、本件発明は、絞り部分の上流側で燃料ガスとその完全燃焼に必要な燃焼用空気の全量を供給し、遅くとも絞り部分から噴出するまでにその全量を混合したうえで、その混合気を絞り部分より炉内に噴出して燃焼させる形式のガスバーナについての発明であることが明らかであり、構成要件Aにいう「予混合ガス」は、燃料ガスとその完全燃焼に必要な燃焼用空気の全量を混合した混合気を意味し、「予混合形ガスバーナ」は、右の形式のガスバーナを指称するものと解さざるを得ない。

また、その混合の程度については、構成要件Aにいう「予混合ガス」及び「予混合形ガスバーナ」が「分子レベルまで均一」であることを要するとまでは認められないが、前記の発明の詳細な説明の記載に照せば、本件発明は、他の構成要件ともあいまって、絞り部分から噴出した段階で急速燃焼することによって火炎が高温の得られる短焔となりうる程度に十分に混合するものであることが明らかである。

二  被告物件が構成要件Aを充足するか

被告物件は、二重筒状に配したガス供給導管6と一次空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用一次空気とを混合して、絞り部分(スロート部2)を有するバーナタイルより右混合気を噴出する構造を有している(甲三、検証)。

しかしながら、被告物件は、前記の二次空気を別に供給する部分予混合式ガスバーナに該当し、前項認定の構成要件Aにいう、「予混合ガス」を噴出せず、「予混合形ガスバーナ」に該当しないから、被告物件は構成要件Aを充足するということはできない。

なお、二次空気を別に供給する部分予混合式ガスバーナであっても、二次空気がバーナタイル付近で急速に燃料ガスと混合するような特別な手段を講ずれば、センターエアの効果もあいまって、燃料ガスと燃焼用空気の全量を予め混合して噴出する場合と同様に、混合性を顕著に高めて過剰空気係数をできるだけ理論値(一・〇)に近づけ、絞り部近くで急速燃焼することによって火炎は高温の得られる短焔となるという作用効果を奏することが可能とも考えられなくもないが、被告物件は、窒素酸化物の低減を目的として積極的に二段燃焼を行うような構造となっており(被告物件のカタログ〔甲三〕五頁)、二次空気がバーナタイル付近で急速に燃料ガスと混合するような手段は何ら講じていないから、右構成の相違により、被告物件は、本件発明の作用効果を奏しないものといわざるを得ない。

原告は、被告物件においても、火炎形状調節弁の操作により、一次空気として燃焼用空気の全量を供給し、二次空気を零とすれば、燃焼用空気の全量を予め混合する形式のガスバーナと同様の燃焼をし、本件発明の作用効果を奏する旨主張するが、被告物件が二次空気を零とすることが可能な構造となっていると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、バーナ業界やそれを使用する業界においては燃焼ガス中における窒素酸化物の抑制が重要な課題であり、二段燃焼は、燃料過濃で一次燃焼を行わせることによって窒素酸化物の生成をおさえ、その後、二次空気を加えて未燃成分を燃焼させるもので、サーマルNOx(空気中の窒素を起源とする窒素酸化物)及びフユーエルNOx(燃料中の窒素分を起源とする窒素酸化物)の抑制に有効であると一般に認識されており(「機械工学便覧」〔日本機械学会編〕A6編八七~九〇頁、「燃焼工学-基礎と応用-」〔小林・荒木・牧野共著、理工学社〕一三八~一五〇、一八八、一八九頁、「燃焼工学第2版」〔水谷幸夫著、森北出版株式会社〕二一四~二一九頁)、被告物件のカタログにおいても二段燃焼方式を採用したことによる窒素酸化物の低減原理を説明していること(甲三)に照らすと、被告物件は、原告主張の如き態様で使用することは予定しない構造になっているものと認められる。

三  被告物件が構成要件Bを充足するか

被告物件が、ガス供給導管6と一次空気導管11の内側の中心軸上に、スロート部2よりも噴出方向上手側から空気を噴射する小径のセンターエア吹出口3が設けられていることは争いがなく、被告物件のカタログには、「センターエアの効果」として、「燃焼負荷を少なくして行くと、燃料ガス及び燃焼用空気のノズル部での流速が低下し混合が悪くなって、良好な燃焼が得られなくなります。センターエアーはこの欠点を改善するために開発したもので、一定圧力で微量の空気を供給します。 ●効果(特に低負荷時) 1.燃料ガスの貫通力(直進力)を大にする。 2.燃料ガスと燃焼用空気の混合を良好にする。 3.フレームの舞い上がりを防ぎ、10:1以上のハイターンダウンを実現する。」との記載があり(甲三)、ロ号物件は、設計容量で燃焼した場合には、センターエアは燃料ガスとほぼ同じ速度で、燃焼用一次空気と比較すると火炎形状調節弁の開度により異なるが約一・四倍から二・八倍の速度で噴出し、燃焼量を設計容量の二分の一にして使用した場合(すなわちターンダウン比2にターンダウンした場合)には、センターエアは、燃料ガスの二倍強、燃焼用一次空気の三倍強の速度で噴出すること(検証の結果。但し、検証調書には流速の記載はなく、検証時の測定値に基づく計算結果によればこのような流速比になることは、争いがない。)が認められ、更に燃焼量を小さくした場合(ハイターンダウンをした場合)には、その流速比が更に大きくなることは明らかであり、弁論の全趣旨によれば、右流速比はイ号物件においてもほぼ同様であると認められる。

したがって、被告物件は、ターンダウン比2以上の場合で使用する場合には、文言上は構成要件Bを充足するようにみえるが、被告物件において、センターエアの効果により混合が良好となるのは、二重筒状に配されたガス供給導管と一次空気導管から供給される燃料ガスと燃焼用一次空気だけであり、別に二次空気が供給される構造となっているから、被告物件は右の構成によっても、混合性を顕著に高めて過剰空気係数をできるだけ理論値(一・〇)に近づけ、絞り部近くで急速燃焼することによって火炎は高温の得られる短焔となるという本件発明の構成による作用効果を奏しないというべきである。

なお、酸素ガスを使用したものではあるが、本件発明と同様のセンターエア供給構造(二重筒状に配した燃料導管と空気導管の内側のバーナ内中心軸上に気体噴射装置を具備する構造)を備えた油バーナ及びガスバーナは、本件特許出願当時公知のものであった(証人岩倉、同秋山)。

四  以上のとおりであって、被告物件が本件発明の技術的範囲に属するとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、全て理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 辻川靖夫)

イ号説明書

一 図面の説明

イ号図面は全体構造を示す縦断側面図(但し、二点鎖線よりも内側の部分。それより外側の部分は「送風ファン」に接続する「空気配管」と「センターエア導管」、「一次空気導管」及び「二次空気導管」との配管接続状態を示す。)であり、図面中の各符号は次の部分を示す。

1 バーナタイル 2 スロート部

3 センターエア吹出口 4 センターエア導管

6 ガス供給導管 11 一次空気導管

13 火炎形状調節弁 14 空気配管

15 送風ファン 16 二次空気導管

17 バーナタイル1の内壁面 18 バーナタイル1の頂面

19 二次空気吹出口

A 断熱材 B 流量調節弁

二 構造の説明

1 ガス供給導管6と一次空気導管11と二次空気導管16とを同心軸上に内側から順次外方に向かって三重筒状に配設し、ガス供給導管6には燃料ガスを、また一次空気導管11と二次空気導管16には空気配管14を介して送風ファン15から送られる常温又は予熱した燃焼用空気の流量配分を火炎形状調節弁13により調節して送るように構成し、一次空気導管11と二次空気導管16がそれぞれ外気と触れる側部には断熱材Aを配設し、燃料ガスと常温又は予熱した燃焼用一次空気とをバーナタイル1の内壁面17の中央部において前方に向かって開口するスロート部2より吹出さしめて拡散混合させるとともに、さらに二次空気導管16を介して常温又は予熱した燃焼用空気をバーナタイル1の頂面18において前方に向かって開口する二次空気吹出口19より吹出さしめるガスバーナである。

2 前記三管6、11、16よりもさらに内側のバーナ内中心軸上には、常温または予熱した燃焼用空気をスロート部2よりも吹出方向上手側から吹出さしめる小径のセンターエア吹出口3を有するセンターエア導管4を配設してある。

3 スロート部2及びそれよりも吹出方向下手側で燃料ガスの一部と燃焼用一次空気及びセンターエア吹出口3から吹出す燃焼用空気とを拡散混合させながら当該燃料ガスの一部を燃焼せしめた後、未燃焼のままの残全量燃料ガスと二次空気吹出口19より吹出す燃焼用二次空気とを拡散混合させながら当該残燃料ガスを燃焼せしめることにより、段階的に拡散混合させて燃焼すべく構成してある。

イ号図面

<省略>

ロ号説明書

一 図面の説明

ロ号図面は全体構造を示す縦断側面図であり(但し、二点鎖線よりも内側の部分。それより外側の部分は「送風ファン」に接続する「空気配管」と「センターエア導管」、「一次空気導管」及び「二次空気導管」との配管接続状態を示す。)、図面中の各符号は次の部分を示す。

1 バーナタイル 2 スロート部

3 センターエア吹出口 4 センターエア導管

6 ガス供給導管 11 一次空気導管

13 火炎形状調節弁 14 空気配管

15 送風ファン 16 二次空気導管

17 バーナタイル1の内壁面 18 バーナタイル1の頂面

19 二次空気吹出口

A 断熱材 B 流量調節弁

二 構造の説明

1 ガス供給導管6と一次空気導管11と二次空気導管16とを同心軸上に内側から順次外方に向かって三重筒状に配設し、ガス供給導管6には燃料ガスを、また一次空気導管11と二次空気導管16には空気配管14を介して送風ファン15から送られる常温又は予熱した燃焼用空気の流量配分を火炎形状調節弁13により調節して送るように構成し、一次空気導管11と二次空気導管16がそれぞれ外気と触れる側部には断熱材Aを配設し、燃料ガスと常温又は予熱した燃焼用一次空気とをバーナタイル1の内壁面17の中央部において前方に向かって開口するスロート部2より吹出さしめて拡散混合させるとともに、さらに二次空気導管16を介して常温又は予熱した燃焼用空気をバーナタイル1の頂面18において前方に向かって開口する二次空気吹出口19より吹出さしめるガスバーナである。

2 前記三管6、11、16よりもさらに内側のバーナ内中心軸上には、常温または予熱した燃焼用空気をスロート部2よりも吹出方向上手側から吹出さしめる小径のセンターエア吹出口3を有するセンターエア導管4を配設してある。

3 スロート部2及びそれよりも吹出方向下手側で燃料ガスの一部と燃焼用一次空気及びセンターエア吹出口3から吹出す燃焼用空気とを拡散混合させながら当該燃料ガスの一部を燃焼せしめた後、未燃焼のままの残全量燃料ガスと二次空気吹出口19より吹出す燃焼用二次空気とを拡散混合させながら当該残燃料ガスを燃焼せしめることにより、段階的に拡散混合させて燃焼すべく構成してある。

ロ号図面

<省略>

イ号第二図面

<省略>

ロ号第二図面

<省略>

流速計算書

1.記号説明

次の通り記号を定める。

絞り部(スロート)径:DA(mm)

二次空気吹出口相当径:DB(mm)

センターエアノズル径:da(mm)

燃料ガスノズル相当径:d(mm)

最大燃焼負荷量:H(Kcal/llr)

燃焼空気温度:T(℃)

過剩空気率:m

一次燃焼空気比率(一次、二次空気総量に対する):α

センターエア添加率:s

ターンダウン比:1/M

(註)  二次空気吹出口は複数個穿設されているが、これらを一つの開口とした場合の相当径。

ガス吐出口が複数個穿設されている。

理論値よりも空気を若干多く流すのが一般的である。

最大燃焼可能量に対する実際の燃焼量の比。

2.計算手順

1) 燃料ガスの種類を決めれば理論燃焼空気量比率Qが必然的に定まる。通常使用される燃料ガスの種類と必要空気量は第1表に示す通りである。

第1表

燃料ガス 真発熱量(Kcal/m3) 燃焼空気必要量比率(Q)

プロパン 22350 23.80

ブタン 29510 30.95

メタン 8550 9.52

COG (1例)4800(高) (1例)4.4

2) 標準燃焼負荷時における空気総必要量QTは、

QT=Q・Q・m (Q:燃料ガス量) …(1)

3) センターエアの量Qは、

Q=s・QT=s・Q・Q・m …(2)

4) ターンダウン比1/Mのときの一次、二次燃焼空気の総必要量QA+Bは、

QA+B=QT/M-Q

=(Q・Q・m)/M-s・Q・Q・m

=Q・Q・m・(1/M-s) …(3)

5) 一次燃焼空気量QAと二次燃焼空気量QBは、

QA=α・QA+B=α・Q・Q・m・(1/M-S) …(4)

QB=(1-α)・QA+B

=(1-α)・Q・Q・m・(1/M-s) …(5)

6) 一次空気、二次空気の平均噴出流速VA+B、一次空気噴出流速VA、二次空気噴出流速VBは、

<省略>

7) センターエア噴出流速Vaは、

<省略>

8) 燃料ガス噴出流速Vは、ガス温度を0℃(標準状態)として

<省略>

3.流速比

1) センターエア流速と一次、二次燃焼空気平均流速の比RA+Bは、

<省略>

2) センターエアに対する一次燃焼空気の流速比RAおよび二次燃焼空気の流速比RBは、

<省略>

3) センターエアと燃料ガスの流速比RGは、

<省略>

4.試算

1) 昭和63年5月27日付被告準備書面によれば、センターエアノズル(「低圧空気吹出口3」とされている)から噴出されるエアの流量は最大負荷空気流量(1/M=1のときの負荷空気流量)の1~3%である。また、一次空気量と二次空気量の比は1:1とするのが妥当である。したがって、1/M=1、s=0.02、α=0.5と設定する。

2) センターエア流速と、一次、二次空気の平均流速の比RA+Bは、(11)式より

<省略>

3) センターエアに対する一次空気、二次空気の流速比は、(12)式、(13)式より、

<省略>

<省略>

4) センターエアと燃料ガスの流速比は、(14)式より、

<省略>

燃料ガスとしてよく使われるプロパンガスを例にとるとQ=23.8であり、燃焼空気温度T=30(℃)とし、過剰空気率mを通常採用される1.05とすると、(18)式より

<省略>

5) 上記の通り、各比率RA+B、RA、RB、RGは各噴出口の径の比によって定まることになる。

6) すなわち、DA/daが7.07のときRAは2(倍)となり、Db/daが7.07のときRBは同様に2(倍)となる。また、DA/da、DB/dBが大きくなるほどRA、RBは大きくなる。イ号、ロ号物件では、DA/da、DB/daはいずれも7.07よりも大きいので、RA、RB>2であると云える。

7) また、(19)式より(d/da)2が1.95のときRGは2(倍)となる。イ号、ロ号物件では、(d/da)2が1.95より大きいので、RG>2であると云える。

5.実測例

1) ロ号物件である被告製FHC-V-4G型バーナーを入手し、実際に各部の寸法を測定した結果は次の通りであった。

DA=70(mm)

DB=68.6(mm) (φ28×6の相当径)

da=9(mm)

dg=14.1(mm) (φ5×8の相当径)

2) ここで、1/M=1、s=0.02、m=1.05、α=0.5、T=400℃、燃料をプロパンとして各流速比を計算すると、

<省略>

3) なお、ターンダウン比を大きくする(1/Mを小さくする)と上記各流速はより大きくなる。例えば、1/M=1/10とすると、RA+B=30(倍)、RG=30(倍)となる。

別表

燃焼量kcal/h 火炎形状調節弁の開度 燃料ガス 燃焼空気 センターエア 流量m2/h バーナ入口温度℃ バーナ入口圧力mmH2O ノズル出口温度℃ ノズル出口圧力mmH2O 流量m3/h バーナ入口温度℃ バーナ入口圧力mmH2O 1次空気ノズル出口温度℃ 1次空気ノズル出口圧力mmH2O 2次空気ノズル出口温度℃ 2次空気ノズル出口圧力mmH2O バーナ入口圧力mmH2O バーナ入口温度℃ 流量m3/h ノズル出口温度℃ ノズル出口圧力mmH2O

<1>25万(設計容量) 1(長炎) ブタン9.1希釈空気9.0合計18.1 24.5 215 149 205 流速56.5(56.8)m/秒 732 451 203 400 13 流速22.1(22)m/秒 420 38 流速38.2(38.2)m/秒 300 269 14.3 203 145 流速62.0(61.9)m/秒

<2>25万(設計容量) 5(中炎) ブタン9.1希釈空気9.0合計18.1 24.5 215 143 195 流速54.7(55)m/秒 732 451 59 380 42 流速39.0(39.0)m/秒 402 16 流速24.5(24.5)m/秒 300 269 14.3 216 158 流速65.6(65.5)m/秒

<3>25万(設計容量) 9(短炎) ブタン9.4希釈空気9.0合計18.4 29.2 233 231 222 流速64.1(64.4)m/秒 763 457 62 423 51 流速44.4(44.4)m/秒 398 8 流速17.3(17.3)m/秒 298 283 14.0 211 148 流速63.0(63.1)m/秒

<4>12.5万 5(中炎) ブタン4.5希釈空気4.4合計8.9 32.6 62 252 52 流速31.6(31.9)m/秒 405 442 18.5 408 12 流速21.3(21.3)m/秒 398 5 流速13.6(13.6)m/秒 303 291 14.4 222 156 流速65.6(65.5)m/秒

<5>2.5万 5(中炎) 調節弁不調により燃焼空気流量(設定値76)を405より少なくすることができないので中止。

工業用加熱炉(下巻)掲載図38

<省略>

機械工学便覧改訂第5版掲載図

<省略>

改訂三版化学工学便覧掲載表

名称 概略図 摘要

拡数炎方式 ポート <省略> 耐火材で構築される.噴出流速は遅い.燃焼はであり、長火な炎となる.高温予熱の場合

ソーキング型ポート <省略> 燃料ガス中に天井面から均一に空気を噴出する.空気混合によって燃焼速度が規定されるので低熱量ガスによる均温加熱に用いられる.

ノズル状バーナー <省略> 高温予熱空気流中に高速で高熱量ガスを吹込む.ジェット作用により空気との混合速度が大きい.

放射ノズルバーナー <省略> (a)天然ガスに適する例(b)高炉ガスに適する例両者とも旋回流により混合を激しくする.

予混合方式 常圧バーナー(加圧ガス噴出による空気吸引) <省略> 燃料ガス噴出時の負圧によって一次空気を吸引混合する.燃焼室内の負圧によって二次空気を吸引して完全に燃焼する.

ガス吸引型バーナー(空気噴出によるガス吸引) <省略> (a)、(b)とも発生炉ガス用バーナーの例である.低圧で浮遊物質(タール、塩など)の多いガスに都合がよい.空気を加圧して噴出し、その負圧によってガスを吸引混合して燃焼させる.

ガス・空気圧入混合型(両者にプロアーを使用) <省略> 低いガス圧に対しても多量のガスを燃焼し、一次空気割合の制御が自由である.混合を良好にするためにベンチュリー筒のようにしたり.流れに回転を与える羽根を用いる場合もある.

完全混合方式 完全混合型バーナー <省略> 単位体当りの発生熱量(熱負荷)を大きくする場合に通する.高温固体表面を着火源とする.予混合ガスの圧および流量変動はできるだけ小さくしなければならない.

熱放射バーナー <省略> (a) は小孔のたくさんある耐火物裂のバーナーブロックを通過して燃焼する.(b)凹面をなす耐火物表面に吹きつける.耐火物表面は強烈な熱放射線(赤外線)の源となる.

<19>日本国特許庁 <11>特許出願公告

特許公報 昭53-32539

<51>Int.Cl.2F 23 D 13/40 F 23 D 13/00 識別記号 <52>日本分類 67 E 2 庁内整理番号 6689-3A <44>公告 昭和53年(1978)9月8日

発明の数 1

<54>ガスバーナ

<21>特願 昭48-25437

<22>出願 昭48(1973)3月2日

公開 昭49-113238

<43>昭49(1974)10月29日

<72>発明者 島箭徹夫

高石市千代田2の8の24

同 平尾克教

尾崎市上の島字北ヶ市415の1

同 岩倉正義

西宮市甲子園四番町11の10

同 麻原源四郎

加古川市西神吉町大国398の1

同 稲垣正宏

東海市荒尾町笹根61

同 植月哲也

加古川市尾上町池田吹上89

<71>出願人 大同酸素株式会社

大阪市南区谷中之町72の1

同 播磨耐火煉瓦株式会社

高砂市荒井町新浜1の3の1

<74>代理人 弁理士 北村修 外2名

<57>特許請求の範囲

1 二重筒状に配したガス供給導管6と空気導管11とから供給される燃料ガスと燃焼用空気とを混合して絞り部分を有するバーナータイルより予混合ガスを噴出せしめる予混合形ガスバーナであつて、前記両管6.11よりも更に内側のバーナ内中心軸上には、前記燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍乃至数十倍早い速度で絞り部2よりも噴出方向上手側から噴射する小径の高圧気体噴射ノズル3を設け、前紀絞り部2よりも噴出方向下手側で燃焼すべく構成してあることを特徴とするガスバーナ。

発明の詳細な説明

本発明は、火炎温度が高く短焔の得られる予混合燃焼方式でのバーナータイル面を着火面とする短焔バーナで且つ燃焼ガスは直線状に高速で噴射されるものであり、例えばレンガの焼成やガラス溶融のために用いる超高温トンネルバーナとして用いるに好適な工業用ガスバーナに関する。

このようなガスバーナでは、きわめて高い燃焼温度(例えば1800~1900℃)が要求され、これを達成する手段として

<イ> 燃焼用空気の予熱温度を上げる手段

<ロ> 物理的な手段により燃焼用空気と燃料ガスの予混合を促進して過剰空気係数をできるだけ理論値(1.0)に近づける手段

の二通りが考えられるものであるが、上記<イ>の手段にあつては、燃焼用空気を500~1000℃付近にまで予熱しなければ前記理論値に近づき難く、この温度にまで予熱された燃焼用空気は既に燃料ガスの発火温度以上に還していることとなるため混合操作上極めて危険であり、予熱および混合のための特別の装置を要する。そして、前記<ロ>の手段によれば前記<イ>の手段による欠点もなく理想的な燃焼状態を得られるものであるが、従来のものは火炎を短焔とするという条件のもとではその物理的な混合を充分良好に行なえるものではなかつた。

そこで本発明は、バーナの形状と用いられる混合気体の流速との効果的な組合わせにより、前述の物理的手段による混合性を顕著に高めて可能なかぎり前記理論値に近づけ、短焔を得られると共に燃焼ガスの直進性を高め得て製品の歩留りを向上し得、且つ経済性に富むガスバーナを提供せんとするものである。

本発明の実施の態様を例示図に基づいて詳述する。

1はバーナタイルであつて予混合ガスの噴出口として絞り部2を持ち、そのタイル面を着火面とする短焔バーナを形成するものであり、バーナ内部の中心にはバーナタイル1の絞り内径の中心で燃料ガスおよび燃焼用空気よりも早い速度で絞り部2よりも噴出方向上手側から噴射する小径の高圧気体ノズル3を持つ高圧気体導管4を設けてある。前記噴射ノズル3はノズルジヨイント5により前記高圧気体導管4に取付けられる。

前記高圧気体導管4を外嵌する状態で燃料ガス供給導管6が設けてあり、その先端にはガスノズル7が設けてある。更にこの燃料ガス供給導管6を外嵌する状態で水導管8が連設されており先端リング9を介して水冷ジヤケツト10が形成されている。

更には、前記水導管8の外側に同芯状態で内面を耐火物で内張りした強制送風空気導管11が構成され、前記水導管8の外周とこの導管11との間に強制送風機(図外)に連通する強制送風路12が形成されている。またこの強制送風導管11は高圧気体噴射ノズル3の前方で絞り部2を持つ末広がり状のバーナタイル1に連続している。従つて、上記構成におけるバーナにあつては、高圧気体であるところの空気、水蒸気、または酸素あるいはそれらの混合気の噴流を燃料ガスノズル7および強制送風路12から噴出される燃料ガスや燃焼用空気よりも数倍ないし数十倍の高速でその中心部において小径の噴射ノズル3からバーナタイル1の絞り部2の中心を通して噴出せしめるものであるから、この中心噴流の活発な乱流と絞り部2により燃料ガスと燃焼用空気との混合を良好にならしめるとともに、バーナタイル1の絞り部分2から噴出される予混合ガスの流線は、その中心高速噴流の存在により第2図イ、ロの通りとなり、合成噴流の外側部と末広がりのバーナタイル1表面との間に多量の渦流が発生し、それらがバーナタイル1表面で連続的な爆発燃焼を起すことによつて、燃焼効率の高い高温にして短焔が形成され、且つ燃焼ガスは直線状に長い高速の噴流となる。

例えば、この中心高速噴流がない場合には第3図イ、ロの如く火焔の浮上がりを生じるものであり、また、中心高速噴流があつても噴出方向下手側に絞り部2が存在しない場合には、単に火焔を長くするだけで、噴流の外側部に積極的な渦流を発生させることができず、上述の如き適正な火焔が得られないのである。

また、予混合ガスの流量により中心高圧気体の噴出量を調整しなくとも常に適正な火焔が得られるものである。

以上要するに、本発明によるときは、バーナタイル1の絞り部2よりも噴出方向上手側から噴出される予混合ガスの中心に高速噴流を生じせしめることにより、それら合成噴流の外側部とバーナタイル表面との間に多量の渦流を生じさせる新規な流線を得しめるものであるが故に、次の利点を有する極めて有効な工業山バーナを提供するに至つたものである。

即ち、バーナ内中心軸上で燃料ガスおよび燃焼用空気よりも数倍及至数十倍も速い高圧気体が噴射され、しかもその噴射方向下手側にバーナタイル1の絞り部2が存するため、高圧気体の外周部から供給される燃料ガスおよび燃焼用空気は、噴出方向に短かい距離内で急激に進路をバーナ内中心側に変更され乍ら攪乱され、高圧高速気体の周部で無数の渦流を生じた合成噴流となり乍ら狭い絞り部2をくぐり抜けた後、バーナタイル1表面との間で更に多数の渦流を発生して、この絞り部2近くで急速燃焼することによつて火炎は高温の得られる短焔となり乍らも、その燃焼ガスは直線状に長い高速噴流となり、炉の中央部にまで燃焼ガスが至らぬうちに上方に逃げ出してしまうような虞れがなく、炉の中央部に達するまで長く燃焼ガスを確実に噴射させ易く、レンガ焼成等の炉に適用する場合にはその製品の歩留りを向上し得るものである。

また、高圧気体を燃焼用空気や燃料ガスよりも内側のバーナ内中心軸上から噴射するものであるから、高圧気体の外周側の燃焼用空気や燃料ガスに対して吸引作用を与えることとなり、バーナ外周側の燃焼用空気や燃料ガスを高圧で圧送する必要なく、従つてバーナ自体を気密および耐圧構造とする必要もなくその制作上の制約が少ない利点もある。

尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にする為に番号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構造に限定されるものではない。

図面の簡単な説明

図面は本発明に係るガスバーナの実施の態様を図示し、第1図は全体の側面図、第2図イ、ロは火焔状態を示す側面図、第3図イ、ロは従来品での火焔状態を示す側面図である。

<56>引用文献

実公昭34-2471

実公昭35-11699

実公昭42-12711

実公昭43-11233

第1図

<省略>

第2図

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第3図

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特許公報

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